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2012年(平成24年) 12月18日(火)付紙面より

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盛りの時間59 ―山形大学農学部からみなさんへ―

山形に生息するカモシカは厳寒期になぜ越冬できるのか 高橋 敏能

 カモシカはスラリとした足からは想像できないですが、実はウシと同じ仲間の動物であり、山形県の県獣として県民に親しまれている動物です。1955年には「特別天然記念物」に指定されましたが、個体数の増加に伴い中部地方や東北地方では農作物への被害が顕在化したため農林業関係者からカモシカの駆除対策の声が強まったようです。

 山形県でも、1990年から1996年までの7年間、山形市周辺に生息しているカモシカを農産物の被害を理由に捕獲することが許可されました。捕獲する時期は2月中下旬の一年間で最も寒い季節です。カモシカ、ヤギ、ヒツジ、ウシなどを反芻動物(胃袋を4個持っている動物)と言います。消化器の構造は食道から最も近い胃袋を第一胃と言い、大型のウシではドラム缶1個分に近い容積がありますが、第一胃では宿主である動物と宿を借りている微生物とは実に巧妙な共生関係にあります。人間ではほとんど消化できない飼料中のセルロースなどの繊維成分を第一胃内の微生物が分解してくれて、その代償(宿代)として酢酸(所謂“食酢”)を中心とする栄養物質を生成し、動物(宿主)に提供してくれます。その代償物が動物(宿主)の生命に必要なエネルギー源になります。

 さて、我々が試料を採取したのは総頭数137頭です。捕獲する当日は朝5時前に起床し、学生数名を同行させて山形市にあります家畜診療所で朝9時から捕獲されて運ばれてくるカモシカを待っています。当初、捕獲は捕獲するための罠で行い、生きたまま運ばれることを想像していましたが、実際は銃殺されて捕獲されてきますので、その光景を目の前にしてショックを受けました。銃殺されてから30分程度で解体現場に体温の温もりがある屠体が到着し、屠体重を測定後我々が必要とする第一胃内容物、血液および体脂肪を採取します。

 第一胃を開腹したときにまず感ずるのは、常緑樹の匂いと第一胃液の臭いがミックスされた言葉では表せない奇妙な臭いです。その後の調査で第一胃の中に入っている植物は、ハイイヌガヤ、リョウメンシダ、ヒメアオキ、エゾユズリハ、ササ、スギなどの常緑樹が中心であり、比較的消化性が良く栄養価が高い植物を摂取していることが分かりました。また、カモシカの第一胃の容積は、ヒツジやヤギと比較すると小さく、反芻動物といっても一度に多くの植物を摂取しているのではなく、これらの植物をつまみ食いしながら移動していることが容易に想像できます。カモシカの第一胃が小さいことは、身軽に移動するためにも都合が良いようです。カモシカは春から秋までの広葉草本や落葉広葉樹などの樹葉に対する嗜好性が強いことが知られていますが、冬から春にかけての厳寒期にはこれらの樹葉は積雪のため採食が困難なので常緑樹の樹葉を食べざるを得ない状況に置かれているのでしょう。常緑樹には栄養価が高い澱粉などの成分が多く含まれており、結果として少量の採食量でも高い栄養価の植物を採食していたことが、厳寒期の寒さを凌げる要因の一つになっていると思われます。

(山形大学農学部教授 家畜飼養学、特にウシを中心とした反芻家畜の栄養生理学)

雪解け頃に 長野県白馬村にて=自然写真家・斎藤政広(1982年撮影)
雪解け頃に 長野県白馬村にて=自然写真家・斎藤政広(1982年撮影)



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