2013年(平成25年) 5月26日(日)付紙面より
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強度と伸縮性を兼ね備えた「夢の繊維」として注目されるクモの糸。その人工合成繊維の実用化を進めている慶應義塾大先端生命科学研究所(鶴岡市)発のバイオベンチャー「スパイバー」(同市)が24日、東京都内で記者会見を開き、世界で初めて量産化に向けた基本技術を確立したとして、人工合成クモ糸繊維で作ったドレスを披露した。関山和秀社長(30)は「地元庄内で新たな産業を立ち上げたい」と抱負を語った。
クモ糸は、防弾チョッキに使われるアラミド繊維の7倍の強度と、ナイロンを上回る伸縮性、300度の耐熱性、軽さなどの特性を併せ持つ。しかし、カイコと違い、共食いする習性などから飼育は困難。米軍が防弾チョッキ用になど、世界で人工合成する研究が進められているが、まだ基礎研究の域を脱していないという。
関山さんは、慶應大先端研の学生だった2007年、「世界最強の生き物は何か」という飲み会での話を基に、3人でスパイバー社を設立。「有限な石油由来に代わる原料が必要」という使命の下、クモの遺伝子を改変して微生物に組み込み、植物由来の糖を発酵させるという工程で、低コストでクモ糸の原料となるタンパク質「フィブロイン」を得る技術を開発。さらに同タンパク質を溶かす安全な溶剤を見つけることで、繊維化する基礎技術を確立した。
組み込む遺伝子の構造を変えることで、繊維の性質を自由に変えることができる。微生物は改良を繰り返し、現在は第6世代まで種類は約300種、生産性は当初の2500倍に上がっている。関連技術を含め特許16件(うち4件は海外)を出願している。
フィブロインは繊維や粉末など多様な形で供給でき、自動車や航空機の部品、医療機器など、さまざまな応用が期待されている。トヨタ系列の自動車部品製造「小島プレス工業」(愛知県豊田市、小島洋一郎社長)と共同で、今年11月の稼働をめどに、試作品を供給する工場を鶴岡市覚岸寺に建設。来春にも月産100キロ、15年には同1トンまで増やす計画だ。
この日、関山社長は、東京都港区六本木の六本木アカデミーヒルズで、小島社長と共に記者会見。約50人の報道陣が詰め掛けた。「QMONOS(クモノス)」と命名された人工合成クモ糸繊維を使った、鮮やかな光沢の青いドレスが披露されると、フラッシュの光に包まれた。
関山社長は「量産化の基盤が整った。世界で初めて遺伝子からデザインされた人工繊維。世界の研究者がこの成果を知ったら腰を抜かすのでは」とし、「一日も早く普及し、脱石油時代のスタンダードな素材になるよう努力する。庄内で新たな産業を立ち上げたい」と抱負。小島社長は「将来、あらゆる業界で活用できる。処分を自然に任せることができる(生分解性の)素材が誕生したのは意義深い。産業界を挙げて使っていけるように、要求される性能の繊維を提供していきたい」と話した。