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2017年(平成29年) 8月11日(金)付紙面より

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森の時間115 ―山形大学農学部からみなさんへ―

素数の妙技 小山 浩正

 17年ゼミという蝉(せみ)が北米で時々話題になります。17年間を蛹(さなき)で過ごし、最後のわずか10日だけ成虫として地上に現れます。きっちり17年に一度だけ大量発生し、残りの期間は一匹も姿を見せない奇妙なセミです。最近は2007年にシカゴで発生し、その数50億匹と試算されました。次の発生は確実に2024年です。なぜ、毎年出てこないのかといえば、時間を置いて一斉に現れた方が天敵に捕まる確率が低くなるからという説が有力です。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というわけです。

 17という素数にも意味があるとされます。実は、北米には13年ゼミという別種の素数ゼミがいます。素数は1とそれ自身以外に約数を持たない数なので、素数どうしの最小公倍数はとても大きくなります。つまり、両者が重なる機会はかなり減るのです。これがもし素数でない間隔、例えば10年ゼミと15年ゼミだったら30年に一回は両者がシンクロしてしまい異なる種同士で交雑が起きます。その結果、中間の12年ゼミとか14年ゼミも生まれてしまうかもしれません。そんなことが続けば、やがて毎年セミが現れることになり、天敵から逃れる効果を損なってしまいます。互いに重なりにくいのが素数の意義だったのです。

 さて、鶴岡市朝日地域の「田麦橋」は、13年に1度架け替えをする約束になっていたそうです。ところが、木造の橋は材木を大量に使うので次第に周辺から良材を調達するのが大変になってきたという記録が残っています。森が豊かな朝日地域でさえ森林資源は疲弊(ひへい)していたことがうかがえます。ところ変わって、静岡県の大井川上流に架けられた刎橋(はねばし)の変遷も見てみましょう。近年の調査によれば、江戸時代に上流で森林が伐採されて以降、この橋の長さは架け替えごとに70メートルから100メートルまで10メートルずつ長くなっていたことが明らかにされました。伐採を境に洪水が頻発して河岸が削られた結果、川幅が広くなったからです。そして、この橋の架け替えも13年と決められていたといいます。どちらの橋も同じ素数が使われていました。区切りのよい10年や15年でなく13年なのはセミと同じ理屈でしょう。改修しなければならない橋は田麦橋や刎橋だけではなかったはずです。一つの橋を改修するだけでも大量の材木が必要なのに、それが重なってしまえば負担は一度にやってきます。橋同士の改修が重ならないようにするために、それぞれの間隔を素数に設定したのではないでしょうか。同調すると不都合が生じる時にヒトも生き物も素数を採用する知恵が生まれたと思えてなりません。

 長野県出身の学生が、御柱祭をはじめ地元の祭りがことごとく7年毎だと教えてくれました。これも同じ理屈かもしれない。そういえば、お寺の法要も三、七、十三、十七回忌と、素数が多く使われます。同調しないで欲しい理由が、どこかに、あるいは誰かにあるのでしょうか。これ以上書くと、営業妨害になりかねないので、あとはご想像にお任せします…。

(元山形大学農学部教授 専門はブナ林をはじめとする生態学。筆者は昨年3月に急逝されました。原稿は生前に寄稿していただいていたものです)

田麦川に架かる現在の田麦橋=自然写真家・斎藤政広(2017年5月26日撮影)
田麦川に架かる現在の田麦橋=自然写真家・斎藤政広(2017年5月26日撮影)



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