2018年(平成30年) 11月30日(金)付紙面より
ツイート
クモ糸の遺伝子を元に人工構造タンパク質の新素材開発・生産を進めるベンチャー企業のSpiber(スパイバー、鶴岡市覚岸寺、関山和秀代表執行役)は28日、素材の量産化に向けた生産拠点とする大規模なプラントをタイに整備すると発表した。官民ファンドのクールジャパン機構などから50億円の出資を受け、2019年半ばまでに着工し、アパレルや自動車分野向けの素材として21年からの商業生産開始を目指す。
プラントはタイの首都・バンコクの東南、ラヨーン県にあるイースタンシーボード工業団地に整備する。東京ドーム2つ分に相当する約10ヘクタールの敷地を確保し、微生物を発酵、精製して各種製品の原料となる構造タンパク質を生産する。現在、鶴岡市のサイエンスパーク内にある本社パイロットプラントの約100倍の規模となる年間数百トンの量産を計画する。具体的な施設規模や設備内容は今後詰める。
微生物の発酵には養分となる糖が必要。タイはサトウキビなど糖の原料が豊富にあり、砂糖生産量は世界4位となっている。プラントを整備する工業団地はタイ最大の国際港・レムチャバン港に近く、日本や海外の自動車メーカーなどの関連工場が立地していることもあり、素材生産拠点の開設を判断した。
タイのプラントで生産された素材は日本に運び、鶴岡の本社で繊維などに加工する。これに伴い、本社の紡糸設備の拡張、増設も今後、計画的に進める。
スパイバーが生産する人工構造タンパク質は繊維をはじめ、樹脂、フィルム、ゲル状など多様な素材への加工が可能で、石油など化石資源に依存せず環境負荷の低い、持続可能な次世代基幹素材として注目されている。同社は、人工構造タンパク質素材は将来的に世界の繊維市場全体の2割程度、25―30兆円規模を占めると予測している。
同社は既に国内外の40を超える企業や研究機関と共同研究開発、素材の産業化に向けた知的財産の集積を進めており、タイでの量産体制の確立に先んじてさまざまな施策や商品展開を計画し、順次発表していく。