2019年(平成31年) 3月6日(水)付紙面より
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松森胤保(1825―92年)の「両羽博物図譜」(県指定有形文化財、酒田市立光丘文庫所蔵)で「チョウザメか、ヤガラの一種」とされている魚について、酒田市法連寺の日本自然保護協会会員、佐藤良和さん(75)が「ハッカク(トクビレ)では」という説を唱え、地元の関係者の間で話題となっている。
松森胤保は、幕末から明治期に活躍した鶴岡生まれの博物学者。地元の動植物を写実的な絵と文で記録した「両羽博物図譜」59冊をはじめ、考古学や天文学、人類学など多岐にわたる328冊を著し、その旺盛な好奇心と博覧強記ぶりから「日本のレオナルド・ダビンチ」とも呼ばれる。
問題の魚は同図譜の「魚類図譜海魚部二」の巻に載っているもので、鼻先がとがり、体が角ばった感じの黒っぽい姿が描かれている。その上には「明治十八年六月三日酒田ニ於見」の前書きに続き、「此日一見ノ侭(まま)、臆(むね)ニ取テ略図ス。最上川尻ニテ網ニ掛ル所ト雖モ、河魚ニ非ス。全ク蝶鮫、又ハヤカラ魚等ノ種類ニ外ナラサルヲ覚ユ。其色、茶黒色」と説明がある。最上川河口で網に掛かったものを一目見て、その記憶を基に描いたもので、チョウザメか、ヤガラの一種ではないかと推測しているのだ。
この図について、慶應義塾大教授を務めた磯野直秀氏が著した解説本「鳥獣虫魚譜―『両羽博物図譜』の世界」(1988年刊)では、「チョウザメの一種」と見出しを付け、「当時チョウザメが最上川にものぼっていたことを示唆する貴重な記載」と説明している。
佐藤さんは、磯野氏が91年、市教育委員会の招きで同図譜について市内で講演した際、その図の説明を聞き、ふに落ちず、気になっていたという。松森は図譜の別の巻にもチョウザメを描いているが、姿がかなり違うことなどがその理由だ。
その5年ほど後、当時勤めていた鶴岡市内のスーパーの鮮魚売り場で、図譜の絵にそっくりな魚を見つけた。売り場の担当者に聞いたところ、「ハッカクだ。北海道でよく捕れるが、地元でもたまに捕れ、刺し身や焼き物、みそ汁にしてもおいしい」と教えられた。
佐藤さんはその後しばらく、この魚のことを忘れていたが、きちんと確認しておきたいと、昨秋に酒田市内のスーパーの鮮魚売り場の知人に「ハッカクが捕れたら教えて」と依頼。2月26日に「山北(新潟県)の市場に入った」と連絡が入り、取り寄せてもらった。魚類に詳しい元県水産試験場職員に図譜の絵とハッカクの現物を見せ、「これで間違いないのでは」と賛同ももらったという。
佐藤さんは「あらためて図と現物を見比べ、これで間違いないと確信した。世の中にはまだ分からないことがたくさんある。追究すれば、それだけの答えが返ってくるのが面白い。今後も地元の自然をいろいろ調べたい」と話している。