2019年(平成31年) 4月25日(木)付紙面より
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100年の時を経て三川町が復活させた幻の米「イ号」で仕込んだ生(き)もと造り特別純米酒「イ号彌太右衛門(やたえもん)」のお披露目会が23日、同町のいろり火の里なの花ホールで開かれた。イ号を育種した庄内三大民間育種家の一人で、同町猪子の篤農家、佐藤彌太右衛門(1883―1948年)の名を銘柄にした三川の新たな酒が誕生した。
イ号は、佐藤彌太右衛門が明治末期に民間育種した優良品種。最盛期には亀ノ尾を抜いて県下一の作付けを誇ったが、戦前に栽培を終え、幻の米となった。
同町が2017年から復活プロジェクトをスタートさせ、県農業総合研究センター水田農業試験場が保管していた種子50グラムを譲り受け、種もみを増やして昨年秋、同町東沼の農家、大瀧浩幹さん(36)が特別栽培で育てた540キロを収穫。鶴岡市大山二丁目の渡會本店(渡會俊仁社長)が昔ながらの生造りで酒造りを担った。
酒林が掲げられたお披露目会の会場には町民ら約50人が集った。阿部誠町長が「いにしえのストーリーがある三川町の酒が出来上がった。田からの宝物を町内外に発信していきたい」とあいさつし、今年の菜の花むすめたちが公募した銘柄の発表に花を添えた。
渡會社長と新酒を酌み交わした大瀧さんは「多くの人の手が関わり、酒ができたことをうれしく思う。酸味と甘味があり、飲みやすい」、銘柄の名付け親となった同町猪子の佐藤美恵子さん(68)は「猪子の大地主だった先人とイ号の名を後世に残していきたいと応募した。銘柄になりうれしい」とそれぞれ笑顔を見せた。
渡會本店では「イ号」の佐藤彌太右衛門、「亀ノ尾」の阿部亀治(庄内町、1868―1928年)、「京の華」などの工藤吉郎兵衛(鶴岡市、1860―1945年)の庄内三大民間育種家が生んだ米の酒造りに取り組んでいる。渡會社長は「来年には京の華の酒を仕込む。飲み比べを楽しんでもらえるようにしたい」と語った。三川町の復活プロジェクトは本年度、「イ号」の作付面積を40アールに倍増し、酒造りを拡大していく予定。
「イ号彌太右衛門」(720ミリリットル、税込み1620円)は限定1000本を販売。三川町内の酒販店や渡會本店などで取り扱っている。