2021年(令和3年) 9月11日(土)付紙面より
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頻繁に人里近くに出没するようになったツキノワグマの「新たな行動」が鶴岡市の専門家らの調査で明らかになった。これまでは食べ物を探しに人里に下りるという見方が大半だったが、それと同時に力の強いクマと弱いクマの「生活圏」をめぐる行動も関わっていることが分かった。専門家は「今後も継続してクマの習性を調べ、人的被害の防止に役立てたい」としている。
県みどり自然課によるとツキノワグマの目撃件数は昨年が県内全体で795件。地区別の内訳は、村山118件、最上90件、置賜342件、庄内240件だった。庄内では山間部の面積が広い鶴岡市が圧倒的に多く147件。次いで酒田市の63件、庄内町の18件、遊佐町の12件となっている。今年は8月末現在253件(県内全体)で、庄内では48件の目撃があった。
人里に出没するようになった要因は▽山の木の実が凶作となり食べ物が極端に少なくなった▽山間部の過疎化と農林業を営む人たちの高齢化▽野生動物と人間社会との境界線が狭まった―ことなどが挙げられている。
2006年からクマの生態について調べている慶應義塾大先端生命科学研究所所員で、鶴岡市鳥獣被害対策推進員の小野寺レイナさんは、遺伝子分析を用いたクマの行動に着目。福島県に生息していたクマが鶴岡市朝日地域の山間部まで範囲を広げていることに疑問を抱いた。
人里に出没して捕獲されたクマの性別などを調べたところ、まだ若いクマや子グマを連れた母グマが多かった。基本的にクマは縄張りを持たないが、成獣の雄グマから押し出されるような形で人里に出没していると想定。岩手大学農学部の山内貴義(きよし)准教授がツキノワグマの首に発信器を付けて行動範囲を調べた結果、山に食べ物が少ない年に限って若いクマなどが行動範囲を広げていた。さらに、クマは暗い所に逃げ込み、一時的にたてこもる習性があることも分かった。
小野寺さんは「習性として力の強い雄グマに会わないようはみ出された形で、人里に出没しているようだ。特に山に食べ物が少ない年は、その傾向が顕著にみられる。9月と10月はクマの出没が多い時期。十分、気を付けてほしい」と呼び掛けている。
山内准教授は▽クマが活発に動く早朝と夕方は森に行かない▽クマに出会ったら静かに後ずさりする▽子グマを連れた母グマは危険―とし、クマと人間社会の境界線をつくるため山間部の草刈りなどを地域ぐるみで行うことが必要と指摘する。
小野寺さんは「学習能力のあるクマは一度、いい思いをした所に必ず偵察に来る。食べ物になる柿や栗などは残さず、できれば一気に収穫することも被害防止につながる」と話している。