2023年(令和5年) 3月16日(木)付紙面より
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「私に関する文書が事実なら議員を辞職する」とは、高市早苗経済安全保障担当相の言葉だが、以前に似通った言葉を聞いたことがある。高市氏は野党が公表した、自身に関する行政文書は「捏造(ねつぞう)」されたものだと主張しての発言。
高市氏は総務大臣の時、放送局の報道に介入し、電波停止を命じる可能性に言及したという。そのことを記した文書で、高市氏の名前が出ている箇所について、同氏は「悪意を持って作られた捏造文書」だという。だが松本剛明総務相は「全て総務省の行政文書」と認めた。
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「似通った言葉」とは、安倍晋三元首相が森友学園問題で「私や妻が関係していたら、総理大臣も国会議員も辞める」と発言したこと。議員辞職をにおわせる強弁をすることで、それ以上の追及はさせないという意図からの発言ではなかっただろうか。高市氏の発言も安倍氏の発言に通じる。
安倍氏は追及の機先を制しようと考えたのかもしれない。だが、その発言後に国有地払い下げの公文書から、安倍氏関連の文言が財務官僚の指示で改ざんされ、無理に文書改ざんを命じられた財務局の男性公務員が自殺している。国会議員は権力を持つ、大臣ともなればなおさらだ。権力の座にある人の強気の政治姿勢は、時によって市井の人を苦しめることもある。
放送局の自主性、独立性、報道の自由は放送法で担保され、政治権力は介入して放送をゆがめてはならないとされている。ところが安倍氏批判を報じた一部テレビ局と番組に同氏が激高。安倍氏や放送を管轄する総務大臣だった高市氏が政権の意に沿わない放送内容について、電波停止などの取り締まりをにおわせるような解釈を示したという。野党が示した文書はその経緯に触れている。
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高市氏が言う、総務省の行政文書が捏造されたものであれば、行政の国民への背信行為に当たりはしないか。ただ、松本総務相は「文書の一部は、内容の正確性が確認できないもの、作成の経緯が判明しないものがある」として精査するという。
部下が作成した行政文書であっても、少なくとも自身の発言部分は確認するのではないか。仮に、高市氏が大臣当時に捏造文書が作られていたとなれば、大臣の管理不行き届きを問われ、その点について高市氏は責任を感じると語った。
捏造があったのか否か。正確性が確認されていない文書は真相究明を急ぎ、国民に説明すべきだ。仮に、権力が報道に介入すれば報道が委縮して国民の知る権利が損なわれ、民主主義の根幹に関わる。
問題は13日の参院予算委員会で質疑された。言えることは、報道機関は政権をチェックし、批判する側にある。全ては、国民の利益のためだ。