2023年(令和5年) 3月22日(水)付紙面より
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厚生労働省が公表した2022年の賃金構造で、フルタイム労働の場合、正社員の平均月給(残業代などを除く)は32万8000円。非正規雇用者は22万1300円で10万6700円の差がある。岸田文雄首相は子育て支援と少子化対策の記者会見で種々の政策を掲げたが、少子化の最大要因は、経済的理由で結婚しない若者が増えているからではないか。
首相は若い世代の所得増、社会全体の構造改革、子育て世帯への切れ目のない支援策などを掲げた。若い世代の所得増はもちろん必須だが、そのためには正規と非正規の雇用格差をなくし、同一労働同一賃金を実現することが肝心ではないか。
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首相は少子化対策は待ったなしとして「異次元の少子化対策」を掲げた。しかし目玉に据えた児童手当などの拡充は財源問題もあり、具体像は今後示すとした。ほかに1一定期間育児休業をした場合の給付率を男女とも10割に引き上げる2公営住宅などを活用しての住宅支援3子どもファースト社会を実現する―などと語ったが、果たしてそれらで十分と言えるだろうか。
「30年代に入るまでが少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス」とも首相は述べたが、少子化の一番の原因は、結婚しない人が増えているためだ。「いい出会いがない」ということもあろうが、低収入で生活できないことで結婚を諦めるケースもあるようだ。今は結婚できないが、将来子どもを持ちたいと、卵子を冷凍保存する女性もいる。ややもすれば、既婚者支援中心の対策だけでなく、誰もが結婚しやすい環境をどのように整えるか、そのような政策により力を入れてもらいたい。
この30年余で雇用形態が変わり、非正規が増えた。昔“時限的な非正規雇用”とも言える、冬期間の出稼ぎや季節労働者がいた。地方の農家などが農閑期に働きに出掛けるケースだったが、今の非正規雇用は通年雇用が常態化した。規制緩和による働き方改革によって、不安定な身分と低収入で働く人を増やしたことの反動が、少子化につながっているのではないか。
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政府は育休取得率の目標を25年度に50%、30年度に85%に引き上げ、時短勤務やオンラインでの在宅勤務も可能にする方針のようだが、目標とする政策の視線は公務員や大企業などに向いている気がしてならない。フリーランスや自営業者にも、対応できる制度であるのかという疑問は残る。
少子化政策で、かつては「イクメン」(子育てする男性の意)が多く語られ、昨年10月には「産後パパ育休」という目新しい言葉も登場した。従来の育児休業とは別に、出生から8週間以内に4週間の育児休業を取得できる制度だが、少人数の中小・零細企業などがそうできるだろうか。少子化対策の切り札は、目新しい言葉より雇用と賃金格差是正が最優先課題であろう。