2023年(令和5年) 3月23日(木)付紙面より
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鶴岡市史編纂委員の本間勝喜(かつよし)さん(79)=鶴岡市鳥居町=が旧庄内藩の財政事情についてまとめた「財政難の庄内藩」を自費出版した。財政難が家臣、農民に与えた影響や、商人からの貸米、貸金の実態などについて、史料から読み取れる藩の実情をまとめている。本間さんは「三方領地替えなどの逸話で庄内藩は良政を行っていたと思われがちだが、400年の歴史の中では良いことばかりではない。本書を通じ庄内藩について真実の一端を示したい」と話している。
本書は8章で構成。第1章「庄内藩財政難について粗描」はメインテーマとなる財政難の実態をまとめた。藩の財政難は天和年間の1680年代の初めに始まったとみられ、一時期を除いて幕末期まで厳しい状況が続いていたとされる。
藩の歳入は年貢が中心で量は毎年ほぼ固定されていた一方、江戸における藩邸の維持費、人件費は莫大なものだった。本間さんは「当時の江戸幕府の仕組みに基づく構造的な問題から、藩が何度も財政改革に取り組んでも抜本的な解決は不可能だった」と指摘する。
第2章「近世中期の『勝木平助』事件」は、深刻な財政難を背景に藩士が引き起こした事件、第3章「第五代藩主酒井忠寄の持病と浪費癖」では歴代藩主で唯一幕府の老中を務めた忠寄氏の勤めぶりや持病による体調不良などを記した。
第4章「鶴岡商人よりの借米、借金」では多くの史料を基に、深刻な財政難に陥った庄内藩が商人から多額の米金借り出しを繰り返していた歴史を2節に分けて解説。第5章「近世後期農村状況について若干の考察」は、貨幣経済浸透による農村構造の変質や、大凶作で疲弊した農村の再興を図る庄内藩の改革などに触れた。第6章「『能吏』だった郡代鈴木筑太夫」は庄内藩財政・農政の責任者・鈴木筑太夫が手掛けた財政改革などをまとめた。
第7章「酒井家 もう一つの『転封』」では、大和国郡山藩(現在の奈良県大和郡山市)の藩主死去に伴い「庄内藩が大和国へ転封されそうになったのではないか」という可能性を指摘している。八代将軍吉宗のとりなしで転封の話はなくなり、そうした噂について記した史料から本間さんは「転封の恐れがなくなり、家臣や下級武士も長く慣れ親しんだ庄内を離れることがないと知って安堵したのでは」と見解を述べている。
最終の第8章「庄内地方の旧土地制度・慣行と地租改正」は、農民にとって多くの制約や弊害があった近世の土地制度が、明治期の地租改正でようやく解決されたという歴史を追った。
本書はA5判、296ページ。
ぶっくすプロほんの森で扱っている。限定100部の販売で1冊2000円(税別)。問い合わせは同店=電0235(28)1639=へ。