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藤沢周平書籍作品あれこれ

川と橋のある風景(1)‐万年橋付近‐

鶴岡市内中心部にある万年橋

「海坂藩」に必ず登場する風物といえば、川とそれに架かっている橋が挙げられる。城下の真中には「五間川」が流れ、さらに東にも西にも大小の川がある。橋にも千鳥橋とか河鹿橋といった洒落(しゃれ)た名前がついている。「五間川」は内川と重なり、主人公が渡っているのは、内川のあの橋だろうか、などと想像するのも楽しみのひとつである。また、町の西側を流れる川は青龍寺川で、例えば『ただ一撃』には主人公の刈谷範兵衛が川原で石を拾ったり、釣りをしたりする川として登場する。青龍寺川は藤沢さんの生家のすぐ前を流れていて、泳いだり、雑魚しめをしたりした想い出深い川である。五間川という一定の名は付けられていないが、「海坂」ものの重要な舞台としてよく登場する。

その青龍寺川に架かる橋のひとつに「万年橋」がある。この橋は家中新町へ入ってゆく交通の要(かなめ)となっていて、ここに木戸があった。前に紹介した『又蔵の火』に、この万年橋が出てくる。

「三ノ丸を出ると、すぐ川に突き当たる。橋の向うに禅竜寺の広大な甍(いらか)が聳(そび)えているが、橋を渡らず川岸を右に折れ、雑木林が残る川岸を万年橋までゆっくり歩き、橋から右に曲がって三ノ丸に入るのがそのときの道筋である。」

主人公の又蔵(幼名虎松)は家中新町の陶山(すやま)道場で剣の稽古(けいこ)をし、自宅のある新屋敷街へ帰るのである。昔の川べりの風景が甦(よみがえ)るような描写である。近年になってこの川べりの光景は一変してしまったが、以前は『蝉しぐれ』に出てくる普請組の組屋敷をイメージさせる家並みがあり、この付近を歩くのが楽しみだったものである。青龍寺川からは幾本も枝分かれした小さな用水路も流れ、いかにも水の豊かな町の感じがする。5月6日の田植えの季節には、とりわけ満々と水をたたえて流れるこの川は、庄内の美田を潤すだけでなく私たちの心にも安らぎを与えてくれている。

「川と橋のある風景(2)」へつづく

(筆者・松田静子/鶴岡藤沢周平文学愛好会顧問)
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