青木 政則 (山形県立日本海病院内科・消化器科医長)
食道がんの治療法としては、内視鏡的治療法、外科的治療法、抗がん剤を使った化学療法、放射線治療法などがあります。内視鏡的治療法は内視鏡で見ながらがんの部分を切除する治療法で早期のうちでもより早期に発見された食道がんに対してなされております。
内視鏡検査の普及と診断法の発達に伴い、内視鏡で治療(切除)可能な早期食道癌が増えています。今回は早期食道癌に対する内視鏡的粘膜切除術(EMR)について説明します。
食道壁は内腔から外側に向かい粘膜層、粘膜下層、固有筋層、外膜と4つの層から成り立っています。さらに粘膜層は食道の内腔に面している部分を粘膜表層そしてその下部を粘膜固有層とに分けられます=図1。食道がんは粘膜層を形成する上皮細胞から発生します。がんが粘膜固有層までにとどまっている早期食道がんはリンパ節転移がほとんどないと考えられ、EMRの適応となります。
EMRはこの粘膜層の比較的表層のがんを内視鏡で観察しながら高周波電流で切除する治療法です。外科的切除と違い治療にかかる時間、苦痛も少なく、また、入院期間が短く、費用も少なくて済みます。何より食道がもとの形で温存されるため治療後の後遺症もほとんどなく、ほぼ治療前と同様の食生活が可能です。
治療は鎮静剤、鎮痛剤を使用し苦痛なく行われます。また安全に治療を行うため心電図や呼吸状態を観察しながら行います。偶発症がなければ翌日から歩行は可能です。食事も数日後から可能となります。入院期間は手技により異なりますが約1週間から10日間を要します。
切除した病変を顕微鏡で検査した結果、癌病巣が粘膜下層以深におよんでいれば、がん細胞が食道の外側のリンパ節などに拡がっている可能性があり、外科手術や化学療法、放射線療法が追加されます。
また、内視鏡治療が終了して退院した後も外来で定期的な内視鏡検査が必要です。
近年、内視鏡的な食道癌の治療はその治療成績の向上、高い安全性そして侵襲性の低さから増加傾向にあります。内視鏡検査による早期発見が可能となりつつある現在、内視鏡治療の担う役割は大きく、さらなる治療成績の向上と安全性の確保が期待されています。同時により深い病変や広い病変への内視鏡的粘膜切除術の適応拡大と手技の確立が検討されつつあります。特に胃がんの内視鏡的治療の項で詳しく触れることになりますが、最近では食道がんに対しても大きな病変を一括で切除できる切開剥離法(ESD)=図2=という方法が普及しつつあります。県立日本海病院ではこの治療法を積極的に行っております。