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医療最前線 こんにちは元気だのー 癌と生活習慣病を中心に

腹腔鏡下手術

佐藤 清 (山形県立日本海病院 外科医長)

佐藤清医師

おなかの手術といえばおなかを大きく切り開いて病気の部位を切り取り、摘出する開腹手術が一般的です。これに対して腹腔鏡下手術は腹腔鏡という直径5ミリ~1センチの細長いカメラを使っておなかの中を観察しながら行う手術です。1987年にフランスの医師が腹腔鏡を用いておなかを切らずに胆のうを摘出する手術に成功した後、腹腔鏡下手術は欧米で急速に拡がりました。日本でも1990年から胆石症患者さんの胆のう摘出術が腹腔鏡下手術で行われるようになりました。日本で開始されてまだ16年目の新しい手術ですが現在までに様々な疾患に応用されるようになり、手術件数も増加してきています。

腹腔鏡下手術の方法を説明します。まず2センチほどおなかを切開し、そこから炭酸ガスを入れて風船状におなかを膨らませて内部の空間を確保します。次いで、内視鏡を入れておなかの中の様子をモニターテレビに映し出します。その画面を見ながら、別のおなかの部分を切開し、そこから専用の手術器具を入れて手術操作をします。

腹腔鏡下胃切除術を受けた患者さんのおなかの写真です。みぞおちの下に4センチのきずがありますが、通常の開腹手術の1/4程度の大きさです。

腹腔鏡下手術の特徴はおなかを切開するのが小さい、すなわち小さいきずで済むことです。きずが小さいので術後の痛みが軽い、美容上に優れているといった利点があります。また、おなかを大きく開かないので手術中に臓器の温度や湿度が保たれるため手術後の胃腸の回復も早くなります。痛みが少なく回復が早いことから、入院期間が短縮され、社会復帰も早くできるようになります。

腹腔鏡下手術の最大の欠点はきずが小さいためおなかの中で使用できる器具に制限があることです。外科医の最も重要な手術器具である“手”もおなかに入れる事ができません。このため臓器や病変を手で直接触ることができないので、触覚によって得られる情報が少なくなり微妙な操作が難しくなります。また、内視鏡の画像は2次元画像のため立体感覚がつかみにくいこともあげられます。このように腹腔鏡下手術では開腹手術と比べ技術的に難しく、外科医にはより高度な技術が要求されます。

消化器外科領域の腹腔鏡下手術は、胆嚢摘出術に始まり、現在までに外科医の技術の向上、新しい手術器具の開発によってさまざまな疾患に応用されるようになってきました。しかしながら全国的に標準手術として確立しているのは胆嚢摘出術だけです。

当院の消化器外科では開院当初より胆石症などの良性疾患を中心に腹腔鏡下手術を実施してきました。胃癌や大腸癌では早期の患者さんに限って適応してきました。癌などの悪性疾患の手術で最も大切な事は、きずの大きさよりも確実に癌を切除する事だからです。しかし、最近の学会報告である程度の進行癌であれば腹腔鏡の手術でも開腹手術と同等の成績である事が示され、全国的にも適応が拡大されてきています。

これまでに腹腔鏡下手術手術を受けた患者さんが亡くなるという非常に残念な医療事故が報告されています。このような悲しい事故を繰り返さないために私たちは技術の向上を目指す事はもちろんですが、最も大切なことは常に患者さんの安全を念頭に置きながら手術をすることだと思います。

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