赤坂 雅弘 (山形県立日本海病院 脳神経外科医長)
脳卒中は大きく分けて脳梗塞・脳出血・くも膜下出血に大別されます。ここでは昔は脳溢血とも言われていた「脳出血」について説明します。
脳出血は一般的に高血圧性脳内出血を指し、高血圧との関係が深い疾患で、脳卒中全体の20~30%を占めています。昭和30年代までは脳卒中の過半数を占め、その死亡率が非常に高い時代がありましたが、高血圧の管理が行き届くようになり、徐々に減少しております。
脳出血は脳の内部で細かく枝分かれした細い動脈が破綻して出血し、脳の中に血の塊(血腫)を形成する急性疾患です。正常の血管では通常の血圧の10倍もの圧力に耐えうる強さを持っており、単に血圧が上昇するだけでは出血は起こりません。しかし、血管そのものがもろくなるとそこに過度な血圧の上昇が加わって限界を超えた時に出血を引き起こすと考えられ、血管がもろくなる原因として、加齢などの老化現象とともに高血圧や動脈硬化が挙げられます。
脳出血は1日の中で血圧が最も高くなる午前10~12時ごろの日中活動時に起こりやすく、脳梗塞との大きな違いです。
脳出血の症状は出血部位によりさまざまですが、一般に頭痛や嘔吐を伴うことが多く、手足の脱力やしびれ、意識障害などが出現します。出血によって脳が破壊され、またその血腫により周囲脳が圧迫されるために出現する症状で、なんの前触れもなく、突然出現します。発症したら、すぐに専門病院を受診しないと、症状を悪化させる要因になります。
症状だけでは脳梗塞か脳出血か判断できないことも少なくありません。脳出血の診断は頭部のCTスキャンを行えば一目瞭然に出血の部位・大きさが判明します。脳出血と診断されれば、直ちに治療を開始します。
治療には内科的治療と外科的治療がありますが、第一にすることはまずは血圧を下げて出血が大きくならないようにすることです。血腫が大きく、意識障害が高度な場合は手術を緊急に行うことがあります。頭を大きく開いて血腫を取り除く手術(開頭手術)と1円玉くらいの小さな穴を頭蓋骨に開けて、細い管で血腫を吸引する手術(定位的血腫吸引手術)です。手術によって血腫を取り除いても、一度破壊された脳の機能が完全に回復することはなかなか難しいため、多くの場合、生活に不自由(後遺症)が残ります。手足の麻痺や言語障害などに対しては、機能回復のためにはリハビリテーションを行うことが必要になります。つまり、不自由な生活を送らないために最も大切なことは脳出血にならないこと、すなわち、予防することであります。
脳出血は生活習慣病の一つであり、特に高血圧症、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病が動脈硬化の主たる原因となるので、これらを適正な状態に維持することが重要で、そのためには過度な食塩摂取を避け、肥満防止・運動不足の解消に努め、バランスのとれた食生活を維持することが推奨されます。大量飲酒もまた、脳出血の危険因子となりますので、節酒に努めましょう。食事療法や運動療法などの生活習慣の是正を行っても改善が不十分な場合、薬物療法が必要となります。高血圧に対しては降圧薬の服用が必要となります。生活習慣病は一生付き合っていかなければならない病気ではありますが、快適で不自由のない生活のためにもきちんと治療することをお勧めいたします。