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医療最前線 こんにちは元気だのー 癌と生活習慣病を中心に

肺がんの外科治療

安孫子 正美 (山形県立日本海病院呼吸器外科医長)

安孫子正美(県立日本海病院呼吸器外科医長)

前回は、齋藤医長より“肺癌の診断と内科的治療”について特集しましたので、今回は“肺がんの外科治療(手術的治療)”について、内科的治療との組み合わせを含めて述べたいと思います。

現在の最新医療においても、肺がんと診断された場合、外科治療すなわち手術が最も有効な治療法の一つです。重粒子線などの最新の治療法が開発されてはおりますが、設備も実績も極めて少なく、まだまだ一般的なものではありません。

肺がんは大きく分けて、約2割の小細胞がんと約8割の非小細胞がんに分類されます。性質が悪性リンパ腫に似ている小細胞がんは、診断時点ですでに進行がんであることが多く、手術治療より抗がん剤治療や放射線治療が優先されます。一方、非小細胞がんの場合は比較的手術適応になることが多く、特に局所にとどまっている病期I期とII期は手術治療が優先されます。より進行した浸潤がんのIII期の場合は、抗がん剤や放射線治療を行ってから、手術が可能かどうか判断します。遠隔転移の明らかなIV期の場合は、残念ながらほとんど手術適応にはなりません。抗がん剤治療と疼痛管理などが主となります。

非小細胞がんの中で最も頻度の高い腺がんには、比較的進行の遅いのんびりした高分化型腺がんが存在します。レントゲン上で淡い陰影が2~3年にわたってゆっくりと成長しますが、小型で確定診断が難しいので、胸腔鏡手術で確定診断を行います。手術は急ぐ必要はありませんが、陰影が変化してきたときは速やかに手術を行った方が良いと思います。女性にこのタイプの癌が多く、悩まれる患者さんが多いのですが、早期がんがほとんどなので、進行がんになる前に胸腔鏡手術をすれば再発の心配も少なく、傷も小さく済みますので、早めに決断された方が良いでしょう。

早期がんではないそれなりのがんの場合は、再発の心配がありますので、手術後に抗がん剤治療を行うことが勧められるようになりました。以前は、手術後の抗がん剤治療は副作用ばかり強くて、再発を予防する効果が証明されておりませんでした。しかし3年ほど前から、新規抗がん剤を使った抗がん剤治療による手術後の補助治療が、明らかに再発を抑制して、生存率をアップしたとの報告が次々と発表され、現在では手術後の抗がん剤治療はかなり一般的となってきました。

当院では、手術後体力回復のためいったん退院していただいて、約2週間後の再入院で初回の抗がん剤治療を行って問題がなければ、その後は外来通院治療で行っております。以前に比べて抗がん剤治療による患者さんの負担や苦痛が少なくなり、抗がん剤にたいするイメージが変わりました。

診断時に明らかに進行がんと判明した場合は(主にⅢ期)、放射線と抗がん剤治療を同時に行って、がんをある程度制御してから手術を行うことがあります。 既に微小な遠隔転移や、リンパ節転移が進んでいることが多いので、手術での取り残しを極力回避するための方法です。放射線と抗がん剤の同時併用は非常に効果が高いのですが、その分副作用も強く、体力の低下した手術後よりも、手術前に行った方が良いという理由もあります。しかし、手術後の合併症は通常の手術より頻度が高く、厳重な術後管理が必要となります。

肺がん手術そのものも、最近10年くらいで大変進歩しました。その理由として、胸腔鏡手術の導入や麻酔および術後管理の進歩が挙げられます。特に胸腔鏡手術は、肺がんの組織学的確定診断の外科的手技としてのみならず、I期程度の肺がんの根治手術としても一般化してきており、胸郭の傷によるダメージが小さいので、特に回復が遅くなりがちな高齢の患者さんに有利です。当院でも、比較的早期の高齢の肺がん患者さんに、約4~6cmの傷で肺葉切除や区域切除などの根治的手術を行っております。

しかし一方で、肺がん手術は一般外科手術に比べて出血の危険性が極めて高く、高度な技術が必要です。胸腔鏡手術も、肺動脈からの出血を防ぎ、安全に確実に完遂するために細心の注意が必要とされます。肺がん手術の需要が増えて、多くの病院で行われるようになってきましたが、治療を受けられる患者さんにとっては、がんの根治性と手術の安全性が大変重要ですので、少なくとも呼吸器外科専門医や指導医の在籍する病院を選ぶことが必須条件だと思います。

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