文字サイズ変更



  • プリント用表示
  • 通常画面表示

医療最前線 こんにちは元気だのー 癌と生活習慣病を中心に

乳がんの診断と治療

鈴木  晃 (山形県立日本海病院外科医長)

鈴木 晃(県立日本海病院外科医長)

乳がんは、以前は欧米に多く、日本では少ないと言われていましたが、今日では日本でも食生活や生活様式の変化とともに年々増加しています。現在、女性では胃がんを抜いて最も頻度の高いがんで、毎年約3万人の女性が乳がんにかかります。乳がんによる死亡者数も増加の一途をたどっており、2000年には、9000人を超える人が亡くなっています。これまでの研究で、乳がんにかかりやすい女性の危険因子として、年齢が40歳以上、肉親に乳がん患者がいる、肥満(特に閉経後、標準体重の20%以上)、独身の女性、初産年齢の高い人、閉経年齢の高い人(55歳以降)といったことがあげられています。

乳がんの主な症状としては乳房のしこりです。しこりがあるからといって、すべて乳がんというわけではありません。乳がんの場合は硬く表面がでこぼこして動きが悪く、また、月経の周期によってしこりに変化がないのも特徴です。乳がんが乳房の皮膚近くまで達すると、えくぼのような“くぼみ”や“ひきつれ”、乳首のへこみが見られるようになります。また表面の皮膚が、炎症を起こしたときのように赤くなったり、乳頭から血液の混じった分泌物が出ることがあります。

乳がんの診断はまず視触診といって、乳房全体を目で見て、あるいは手で触れて乳房の形、皮膚、乳頭などに異常がないか、またしこりができていないかを確かめます。検査としては乳房X線撮影(マンモグラフィー)や超音波検査があります。しこりがある場合はさらに注射針を乳腺に刺して細胞診を行い、乳がんかどうかを診断します。時には乳腺組織の一部を切除する組織診を行うこともあります。また、CTやMRIなどの検査を行って乳房内での病変の広がり方や他の部位に転移がないかを調べます。04年から乳がん検診の指針(厚生労働省)が大きく変わり、40歳代以上にマンモグラフィーが導入されました。乳がん検診は視触診に加えてマンモグラフィーを併用することで、1cm以下の小さな乳がんや触知できない乳がんを発見することができます。これによって乳がんの発見率は、視触診だけの乳がん検診の3倍と報告されています。

乳がんの治療には、手術療法、放射線療法、そして抗がん剤やホルモン剤などによる薬物療法があります。症状の進み具合(病期)や、患者さんの年齢や個々の乳がんのもつ性質などに応じて治療方針を立て,それぞれを組み合わせて治療していきます。その中でも手術療法が中心になりますが、かつては乳房全体とその下の筋肉(胸筋)まで切除していました。このため、わきの下がへこんでしまい、肋骨が浮き出た状態になって、胸が変形してしまい、腕や肩の運動障害や腕のむくみも生じやすくなっていました。しかし、最近は早期がんではしこりを含む乳房の一部だけを切除する「乳房温存手術」が行われるようになり、女性にとってかけがえのない乳房を温存しつつ、従来の乳房切除術に匹敵する治療成績をあげています。この場合、手術後に温存した乳房に放射線治療を行って再発を防ぎます。

薬物療法でがんを小さくしてから温存手術をすることもあります。がんが複数あったり、広がっている場合は、乳房を全部切除することになりますが、胸筋を残す乳房切除術が標準となっており、胸の変形や運動障害やむくみは少なくなりました。乳房を全部切除した場合は自分の背中やおなかの筋肉を使って乳房の形を形成する乳房再建手術を行うことによって、ふくらみを取り戻すことも可能です。手術でがんを取り除いた患者さんの多くは、再発予防のためのホルモン療法や抗がん剤による治療が行われます。

乳がんは、早期に発見すれば非常に高い確率で治すことが期待できるがんであり、先ほど述べた乳房温存手術が選択できることにもつながります。また、乳がんは、内臓のがんとは違って、からだの表面近くにできるため、自分で発見することが可能ながんです。それゆえ、早期発見のためには定期的な検診および自己検診を行うことが重要と考えられます。

トップページへ前のページへもどる
ページの先頭へ

Loading news. please wait...

株式会社 荘内日報社   本社:〒997-0035 山形県鶴岡市馬場町8-29  (私書箱専用〒997-8691) TEL 0235-22-1480
System construction by S-Field