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医療最前線 こんにちは元気だのー 癌と生活習慣病を中心に

高血圧(1)

池田 真梨子 (山形県立日本海病院内科・循環器科医師)

池田真梨子(県立日本海病院内科・循環器科医師)

高血圧症は頻度の高い病気の一つであり、日本人の4人に1人、さらに50歳以上では2人に1人が高血圧症といわれています。いわゆる高血圧症の原因はよく分かっておらず、遺伝的な因子や環境因子(生活習慣など)が関与し発症すると考えられています。高血圧を悪化させる要因としては、塩分の取りすぎ、肥満、お酒の飲みすぎ、ストレス、たばこ、などが挙げられます。悪化させる要因のほとんどが、個人の生活習慣に依存しています。これは逆に、高血圧症が、生活習慣により改善できる事を意味します。

今から約1世紀ほど前に血圧が計れるようになり、高血圧は脳卒中を代表選手とする心血管病(臓器の合併症)になりやすくする危険な状態であると広く認識されるようになったのは、人類の歴史からすればつい最近のことです。降圧薬(血圧を下げるお薬)の登場と普及により、高血圧による脳の臓器障害である脳卒中が劇的に減り(1965年以降)、日本は世界一の長寿国となりました。国民の血圧水準の低下から脳卒中が減った事は良く知られています。食塩摂取が欧米人に比べとても多く脳卒中になりやすい日本国民は、降圧薬により大きな恩恵に預かったのです。この教訓から、血圧を高くしてはいけない理由は脳卒中の予防のため、との認識は日本人に広く浸透し、どなたでもご存じだと思います。

血圧分類別に見た脳梗塞発症率のグラフ

血圧を下げることにより守るべき重要な臓器は、脳以外に、目、心臓、腎臓、それと大血管(大動脈、心臓と重要な臓器をつなぐ血液のパイプと考えてください)です。目の眼底出血は失明の原因に、心臓は狭心症や心不全の原因に、腎臓は腎不全の原因に、大動脈が裂け、破裂すれば突然死(解離性大動脈瘤)の原因になります。高血圧は自覚症状が何も出ないままこれら重要臓器を駄目にしてしまうため、「サイレント・キラー」とも言われています。高血圧患者さんのこのような重要臓器の合併症になる割合は、血圧の高さにほぼ比例することが分かっています。

さらに、高血圧による重要臓器のダメージをさらに増幅させる要因として、高脂血症、糖尿病、喫煙、肥満があります(これらは単独でも高血圧と同様臓器障害をもたらします)。これらの要因が重なれば、重なるほど重要臓器の合併症になる危険は高くなります。したがって、こうした合併症を予防するためには、血圧が正常の人は高血圧にならないよう注意し、すでに高血圧の人は生活習慣の改善や薬を用いて血圧を正常化することが必要ですし健康の維持のために重要となるのです。

現在、日本人の死亡原因は上位から、がん、心臓病、脳血管疾患です。心臓病と脳血管疾患の重要な危険因子として高血圧症があり、高血圧治療をもっと十分に行うと、心臓病と脳血管疾患による死亡率をもっと下げられると考えられています。国民の血圧水準の低下から脳卒中が減ったと前述しましたが、日本人は依然脳卒中になりやすい国民であることに変わりはなく、約半数が十分に血圧の管理がされていないのが現状です。つまり、高血圧に対する病気の認識は高くはなりましたが、まだまだ満足な管理と治療ができていない状態と、医師も患者さんも謙虚に受け止めなければならないと思います。

最近問題となってきたのが、生活習慣の欧米化から、以前に比べて若い高血圧患者が増えています。30、40歳代で血圧を気にしている人は多くはなく、この年代の高血圧患者の8~9割が無治療で放置されているという現状を皆さんご存じでしょうか。これからの日本を支えるこの年代が高齢者になるころ、もう日本は世界一の長寿国の座から転落しているかもしれません。このような事態にならないためにも血圧の管理と生活習慣の改善は重要な取り組みです。皆さんも医者任せにせず、積極的にご自身で取り組んでいただきたいと思います。

次回は、高血圧の具体的な管理と治療についてお話しさせていただきます。

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