町屋 純一 (山形県立日本海病院 内科医長)
生活習慣病は、食生活などの生活習慣が原因で起こり、自覚症状がなくてもゆっくりと確実に進行し、放置していると将来大きな健康上の障害を起こす病気です。高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病は一般的によく知られるようになり皆さんも大変気にされていることと思います。しかしまだあまり知られていない、肺の生活習慣病があります。それが「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」です。
COPDは気管支の炎症や肺の弾性の低下によって空気の流れが慢性的に悪くなることが特徴です。これまでは慢性気管支炎や肺気腫と診断されていましたが、これらを合わせてCOPDと呼ぶようになっています。COPDは決して珍しい病気ではなく、最近の研究の結果、日本には530万人以上の患者さんがいると推測されていますがしっかりと診断され適切な治療を受けている方は少ないと言われています。
COPDの原因のほとんどが「たばこ」です。たばこを吸い続けるうちに呼吸の働きが徐々に悪くなり、初めは咳や痰の症状で発症し、だんだんと息切れや呼吸困難を自覚するようになります。さらに進行すると呼吸不全や心不全により生命にかかわる状況になります。
COPDは簡単な肺機能検査で診断することが可能です。喫煙者で風邪でもないのにしつこく咳や痰が出る、階段を上る時に息切れがするなどの症状がみられたらCOPDの初期症状の可能性がありますので検査をお勧めします。
現在のところ、COPDを根本的に改善する治療法はありませんが、できるだけ早い時期に診断を受けて治療を始めれば呼吸機能の悪化を抑えることが可能です。逆にどうせ良くならないからと放置すると呼吸機能はどんどん悪化し普通の生活ができなくなってしまう可能性もあります。
COPDと診断された場合の治療はまず禁煙です。禁煙はCOPDの進行を止める唯一かつ最大の手段です。タバコを吸う本数を減らすいわゆる「減煙」は効果がないとされています。また、COPDの患者さんはインフルエンザなどの感染症をきっかけに呼吸状態が急に悪くなる(急性増悪)ことがあるので、予防のためにインフルエンザワクチンの接種が勧められています。うがいや手洗いなどの日常的な風邪の予防対策も大事です。さらに息切れなどの症状がある場合は気管支拡張薬を用います。呼吸不全を合併し酸素不足の状態になった患者さんは1日中酸素を吸入する在宅酸素療法が必要となります。
生活習慣病であるCOPDは早期診断と適切な治療(禁煙を含む)で全身状態、呼吸状態の悪化をかなり食い止めることが可能です。気になる方はぜひ専門医に相談することをお勧めします。