文字サイズ変更



  • プリント用表示
  • 通常画面表示

こんにちは元気だのー 医療:最近の話題

化学療法と緩和ケア

斎藤 弘 (県立日本海病院内科医長)

斎藤弘医師の写真

化学療法という言葉は、細菌感染症などの治療に対し抗生物質という化学物質を用いることを意味していましたが、がん(癌)治療においては抗がん剤による治療も含まれるようになりました。近年、癌細胞固有の生理的特徴を利用し、より選択的に作用する「分子標的薬」が出現し、これらと区別するために「殺細胞薬」とも呼称されます。

抗がん剤はその投与量に応じ、より殺細胞効果を強く発揮します。しかし同時に癌以外の正常な細胞にも影響し、有害反応(副作用)も強く出現します。この治療量と副作用量が、高血圧薬などの通常用いられている薬と違い非常に近いため、効果的な治療を行うためには、程度の多少はあるものの副作用は避けられません。そのため抗がん剤治療に対する一般的なイメージは、その効果よりも悪心・嘔吐(おうと)、脱毛など、副作用を非常に強く想起させるものになっています。

そのほかホルモン剤、サイトカイン、抗体など、癌治療にはさまざまな薬物を使用しています。これらにもある程度の副作用はありますが、従来の抗がん剤と比べれば比較的軽いことがほとんどです。また副作用軽減のために抗がん剤自体の改良だけでなく、副作用を軽減する薬の開発やその適切な使用法が工夫検討されています。

かかっている癌種や癌の進行具合(病期と言います)によっては、手術、放射線治療、抗がん剤、あるいはこれらをうまく組み合わせることにより、完全に治す(治癒)ことができる場合があります。しかし状況によっては残念ながら治癒できない場合もあります。

治癒不可能の癌は着実に進行し、身体の不調を生じさせ肉体的苦痛を伴ってきます。このように治癒が不可能であっても、抗がん剤などを適切に使用し、癌に伴う苦痛や症状を軽減し進行を遅らせ、日常生活や自分の時間を取り戻すことができます。しかし、やがて癌は薬に対し抵抗性を獲得し、安定した状態が永続することは困難です。この状況では治療に伴う副作用によりいたずらに体力が消耗され、抗がん剤による治療のメリットが得られなくなります。この時期は抗がん剤による治療より、症状を和らげるための鎮痛剤、医療用麻薬による治療が主となります。

今まで述べたように、癌種や癌の状態と自分の持つ体力や状況により抗がん剤治療の意味付けは異なります。症状を緩和する目的とはいえ、抗がん剤による治療は負担を伴う治療であり、そのため治療にあたっては以下のことを再度確認しましょう。

  1. 病名、病状 どこの癌で、どの程度進んだ状態(病期)なのか。
  2. 治療の目的 完全な治癒を目指すのか、もしくは治癒不可能であり進行を抑えたり症状を和らげるためなのか。
  3. 予想されるリスク その治療にはどのような危険(副作用)が伴うのか、また死亡などの重大な副作用が伴う可能性の確認。
  4. 期待される利益 医師が期待している抗腫瘍効果ではなく、治療を受けることにより病気がどの程度コントロールされるのか。
  5. その治療にかかるコスト 代替治療の有無、治療を受けなかったときの不利益などの確認。

今こうしている間にも、治療効果の期待できる分子標的薬や抗体が開発され、実地医療に導入されつつあります。治癒することはなくとも、有効な薬の出現に希望を持ち、根気よく治療を続けていくことも化学療法による緩和治療となります。

2007年10月9日 up

トップページへ前のページへもどる
ページの先頭へ

Loading news. please wait...

株式会社 荘内日報社   本社:〒997-0035 山形県鶴岡市馬場町8-29  (私書箱専用〒997-8691) TEL 0235-22-1480
System construction by S-Field