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こんにちは元気だのー 医療:最近の話題

精神症状と緩和ケア

灘岡 壽英 (県立鶴岡病院長)

灘岡壽英氏の写真

癌(がん)の治療を受ける患者さんは、病気そのものに対する不安のほかに身体的苦痛から来る不安、検査や治療に伴う苦痛や不安、家族に対する気遣い、自分の将来に対する不安、経済的な不安などさまざまな問題を一緒に背負うことになります。そのためそのほかの身体の病気の患者さんよりも精神症状を発生することが多いと言われています。

1.癌患者にみられる精神症状

癌の宣告を受けると多くの人が不安、恐れなどの気持ちを抱くものですが、時間の経過とともに自分なりの受け入れ方をして、一時の強い不安などは落ち着くと考えられています。しかし、実際にはその後も約2~4割の患者さんが不安や抑うつなど治療が必要な症状を持っていると言われており、そのうちの2分の1から3分の1はうつ病と診断されるものです。

問題なのは、患者さんはそのような症状を医療スタッフに訴えないことが多いことと、医療スタッフもそれらの症状を治療が必要な問題ととらえないで、癌で治療を受ける人では普通に起こるものでしかたないと思っていることが少なくないことです。

癌治療の現場で遭遇する精神症状として次に多いのが「せん妄」と呼ばれるものです。癌の種類や程度によっても違いますが、特に終末期にその発生が増加することが知られており、6~7割にも達するという報告もあります。

せん妄とは患者さんがうわごとのように現実にないことをしゃべったり、落ち着きがなく動き回ったりするような症状で、特に夜間に多く発生し、そのことを本人は覚えていないことが多いのです。そのために患者さんが自分から訴えることはありませんが、付き添いの家族は不安になりますし、患者さんが無意識に点滴を抜いてしまったり、勝手に動き出したりして安静が守れないので医療スタッフはその対処に困ることが多いのです。

2.精神症状に対する対処

不安や抑うつ症状に対する治療は心理的なアプローチと薬物療法とに分けられます。心理的なアプローチとしては、患者さんの気持ちを受け入れてよく聞いてあげることで、必要に応じて専門的なカウンセリングを行うこともあります。また症状によって抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬などを使うこともあります。

精神科の薬を飲むことに不安を感じる患者さんや家族の方は少なくありませんが、きちんと決められた通りに服用すれば心配するような副作用などはありません。むしろ気持ちの問題だからと薬を飲まないで我慢することの方が、精神的にもつらいですし、癌の治療そのものにもマイナスになると考えられます。

癌患者のせん妄については、さまざまな要因が関与していると言われています。癌そのものの身体的影響、それに伴う痛みや不眠などの影響、治療に使う薬の影響も考えられます。個別の問題への対処も必要ですが、せん妄そのものに対しては薬物療法が主体となります。せん妄は患者さんの心身の衰弱をもたらすため、病気の予後にも影響するので早期の対処が求められますが、実際にはコントロールが難しいことも少なくありません。

3.おわりに

癌の治療は病気の治癒が最終的な目標であり、そのためには少しくらいの苦痛は我慢しなければならないと考えられていた時代もあります。しかし緩和ケアという言葉が使われるようになったのは、精神的な苦痛も身体的苦痛と同程度に考えてその軽減を図るべきだという考えが主流になったためです。わが国では身体面の治療に比べると精神的な問題に対する取り組みは遅れていると言われています。私たちは今後さらにこの方面での実践と研究が必要だと考えています。

2007年11月06日 up

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