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こんにちは元気だのー 医療:最近の話題

~ちょっと気になる診療科~『形成外科』

マイクロサージャリー

柏 英雄 (県立日本海病院形成外科医長)

柏 英雄氏の写真

『マイクロサージャリー』という言葉をご存じですか。マイクロサージャリーは肉眼では細かすぎて行うことができない手技を、顕微鏡を用いて行う手術を指します。整形・形成外科領域のマイクロサージャリーで最も一般的なものに切断指再接着があります。外傷などで切れた指をもう一度つなぐ手術ですが、この手術は30年以上前に世界に先駆け日本ではじめて成功しました。

その先生は手術を行う数年前から、準備のために日々顕微鏡視下で血管を縫合する練習を行っていたとのことです。実験動物として犬を用いたのですが、実験終了後に殺すに忍びなく、一時期片足の犬を10匹以上飼っていたと講演でおっしゃっていました。そのように、マイクロサージャリーにはこの領域を専門にしようと志してからの、動物の血管を縫合する練習が欠かせません。日々の診療が終わった後に、ラットなどの動物を用いて血管を縫合するなどの地道な練習が必要とされています。

再接着手術の最も難しいところは切れた動脈、静脈、神経を、顕微鏡を用いて縫合するところです。1㎜にも満たない血管を髪の毛よりもはるかに細い専用の糸で縫合する手技が、この手術の成功の鍵になるのです。手術の際に今まで血の気の全くなかった指に、縫合した血管から新たな血液が注がれて一気にピンク色に変わるときには術者として大きな喜びがあります。しかし、血管の挫滅(ざめつ)が予想以上に強くて何回縫合してもうまく流れてくれない場合には、誰が見ても結果が一目瞭然なだけにストレスも大きい手術です。

マイクロサージャリーは現在では切断指の手術ばかりではなく他の手術にも広く応用されています。切れたものをもう一度戻すという点では、例えば頭皮(回転する棒に髪の毛を巻き取られた場合におこります)、耳、口唇(動物に噛まれた場合におこります)、鼻なども滅多にはありませんが報告されています。またこの技術は癌の再建手術にも広く応用されています。舌癌などの口腔底癌の手術で患部を大きく切除した場合、そのままでは癌が治っても一生食事が摂れなくなってしまいます。そこで、癌を切除した部分の穴を埋めるために腕や大腿部や腹部から血管を付けたまま皮膚を採取し、これらを首の血管と縫合するわけです。この手術が広く行われるようになってから、こうした疾患の患者さんの術後生活の質が大きく向上しました。また、こうした技術は様々な移植医療の基礎にもなっています。移植医療とマイクロサージャリーがどんな関係があるのかと思われるかもしれませんが、組織を移植する場合には最終的にその血管を縫合する手技が不可欠なのです。日本では倫理的な問題もあって移植医療はかなりの制約を受けていますが、諸外国では臓器移植ばかりではなく、手を切断された患者さんへの手の移植、声を失った患者さんへの喉頭移植、顔面熱傷によるひきつれに対する顔面の移植なども行われています。

また、最近ではマイクロサージャリーの上を行く手術としてスーパーマイクロサージャリーという言葉が使われるようになりました。血管径で0.5㎜以下の血管やリンパ管を縫合する手術を指します。こうした手術は医師の努力も無論必要ですが、顕微鏡の進歩、手術に使う道具の進歩、縫合糸の進歩にも負うところが大きいものです。この技術によって爪レベルでの切断指再接着、癌治療後のリンパ浮腫に対するリンパ管細静脈吻合手術、他にも今までの再建手術に比してはるかに体への負担の少ない再建手術などが可能になってきました。 血管吻合をロボットにさせる研究も進められています。まだ、ロボットでは2-3㎜の太い血管しか縫合できないようですが、将来はこうした手術は全てロボットが行う時代が来るかもしれません。

2008年2月5日 up

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