2024年(令和6年) 5月22日(水)付紙面より
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地域農業を守ろうと三川町青山の農業法人「まいすたぁ」=齋藤一志代表取締役(67)=は、効率的な稲作農法「乾田直播(かんでんちょくはん)」に取り組んでいる。文字通り乾いた田んぼに直接種もみをまいて発芽させる方法。育苗や田んぼの代かき、田植え作業の省力化が図られる。同社では2019年に本格的に始め、年々栽培面積を拡大。来シーズンは今の15ヘクタールから25ヘクタールに広げる予定だ。
乾田直播は、農作業の労力が大幅にカットできるのがメリット。慣行栽培と比べて10アール当たりの作業時間は20分の1で済む。「これまで通りの作り方はもう限界」と将来を見据えた齋藤代表は乾田直播の先進地・アメリカやイタリアを視察。幅2・5メートル、時速約12キロという速さで直まきができる大型農機を導入した。現在の収量は約600キロを確保。精米を経て全量を香港のおにぎり製造会社に輸出している。
乾田直播の年間スケジュールは4月に田起こしをした後、土に肥料を与えて20日過ぎに種もみをまく。定着と漏水防止のため農機で土を圧縮。6月10日ごろ発芽して育った田んぼに水を入れる。いもち病の防除などを経て10月初めに収穫する。国の補助を得、田んぼのあぜ道を取り除いて7つの区画を1区画(広さ約2ヘクタール)にする大規模栽培用の農地整備も進めてきた。
「2040年には国内の農家が現在の120万人から25万人まで減るというショッキングな推計がある。高齢で米を作る人が年々減り、個人的にはすでに食糧危機の時代に入っていると思う」と齋藤代表は危機感を募らせる。今年も米作りを引退した農家2軒の農地を引き受けた。
中山間地のみならず、かつては「米どころ庄内平野」といわれた平野部でも耕作放棄地がぽつぽつと見受けられるようになった。イタリア視察の際、500ヘクタールという広大な土地で社員4人だけで米を作っている現実を目の当たりにした齋藤代表は「200~300ヘクタールは乾田直播で稲作栽培は十分可能。これから5年、10年後の間に農家が大幅に減少し、農地を維持することさえ困難な時代が来る。新たな栽培方法を見いだしながら地域農業と『食』を守る努力を続けたい」と語った。