2011年(平成23年) 2月17日(木)付紙面より
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酒田市黒森地区に伝わる農民芸能・黒森歌舞伎の正月公演が15日、同地区の日枝神社常設演舞場で奉納上演された。今年の本狂言は「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」。黒森小学校男子児童による少年歌舞伎も上演され、市内外から訪れた見物客は伝統芸能と子供たちの愛らしい演技を満喫した。
黒森歌舞伎は江戸時代中期の享保年間(1716―35年)から地区民によって連綿と受け継がれてきた農民芸能。盗賊が村に入り、村人の生活がすさんでいくのに心を痛めた村人が、勧善懲悪の思想を普及させるために若衆に芝居を演じさせたのが始まりとされる。
寒さの厳しい毎年2月中旬に上演されることから「雪中芝居」とも呼ばれる。1997年には文化財保護法に基づく「記録作成などの措置を講ずべき国選択無形民俗文化財」に選ばれた。
今年の本狂言「一谷嫩軍記」は正月公演としては98年以来、13年ぶりの上演。源平盛衰記をモチーフにした時代浄瑠璃で、1751(宝暦元)年に大阪・豊竹座で初演。源氏方の武将・熊谷直実は、平敦盛を助けるために自分の子を殺し身代わりにしたが、その後、無常を悟って仏門に入るという物語。今回はいずれも見どころの多い「須磨浦陣門の場」「組討(くみうち)の場」「熊谷陣屋の場」の3幕を披露した。
少年歌舞伎は「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)」の中の一幕「稲瀬川勢揃いの場面」。盗賊5人が橋の上で自己紹介し合う「白浪五人男」を堂々と演じた。
この日は青空が広がる好天となり、見物客たちは客席で弁当を広げ、酒を酌み交わしながら役者が口上を述べたり、見えを切るシーンでは拍手を送ったり、カメラのシャッターを盛んに切っていた。
江戸時代から地区内に「安沢歌舞伎」が伝わる金山町安沢から鑑賞に訪れた加藤勝昭さん(65)と佐藤仁さん(64)は「役者たちは一生懸命に練習しているようで、その成果が出ている。衣装も素晴らしい。寒いが、屋外で見るというこのスタイルこそ芝居の原点」と話していた。今月17日も正午から同じ出し物が上演されるほか、3月6日には同市の希望ホールで酒田公演が行われる。