2024年(令和6年) 5月18日(土)付紙面より
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県・酒田市病院機構(島貫隆夫理事長)は16日、慢性疾患の人など中山間地の受診困難患者を対象に、遠隔診療機能を備えた車が出向くことで来院せずに医療サービスが受けられる「医療MaaS(マース)」の運用を開始した。診療車両が八幡地域を回り、看護師が直接患者の状態を確認しながら、日本海八幡クリニックでオンライン診療を行う医師に伝え、質の高い医療サービスを行う取り組みで、医療MaaSの導入は県内初。
診療車両で中山間地へ災害時にも活用
同機構では、2021年10月から山形大、NTT東日本と共同で、常駐医師がいない同市飛島の飛島診療所と、日本海総合病院、松山診療所をリモートでつなぐ遠隔診療の実験などさまざまな取り組みを進めてきた。今回導入した診療車両は、小型のキャンピングカーを改造したもの。大人が横になることができるベッドや電子カルテ、体温や血圧などのバイタルデータを取得する医療機器を積載。同クリニックの事務職員が運転し、同乗の看護師が患者の状態を確認しながら、遠隔診療に当たる医師と連携することで質の高い医療を提供できるほか、医師からの指示を受け、診療補助などを行う。車両価格は約500万円。
診療は毎週月曜日と木曜日に実施。1日最大4枠で完全予約制。同クリニックに定期通院する人の中で、比較的状態が安定している患者の利用を想定しており、月約30人の利用を見込んでいる。
運用初日のこの日は5件の診療を実施。診療車両は午後0時半に日本海総合病院を出発。同クリニックで看護師が同乗した後、午後1時半から患者の診療を行った。
このうち、高血圧などで家族に車で送迎してもらいながら同クリニックに通院している日向地区の女性(88)は自宅でオンライン診療を受け、タブレットで医師の指示を受けた看護師が手足のむくみ具合を確認するなどした。女性は「クリニックに通院しているときと同じ感覚で先生と話せた。自宅から通院しなくてもいいのは身体的にも楽」と表情を緩めた。
診察に当たった同クリニックの土井和博診療所長は「移動手段がなくて困っている高齢者は多く、来院してからも転倒などの危険がある。患者は自宅でリラックスしながら診察を受けることができ、医師も来院患者に対応しながら診察できる」、島貫理事長は「移動手段のない人や高齢患者のために、診療車両で中山間地にアウトリーチをかけていきたい。災害が起こった場合でも救護所や二次避難所として活用できるのでは」とそれぞれ話していた。
同機構では、八幡地域で実証を重ねながら、松山地域でも医療MaaSを導入できるか検討を重ねていく方針。