2024年(令和6年) 10月2日(水)付紙面より
ツイート
鶴岡市立藤沢周平記念館の第22回企画展「『龍を見た男』の世界」が、同館で始まった。「龍を見た男」は鶴岡市出身の作家・藤沢周平さん(1927―97年)が古里鶴岡の古刹善寳寺を舞台の一つとして書いた物語。善寳寺にまつわる龍神伝説や藤沢さんの取材ノート、小説に登場する江戸期の漁業の道具など、貴重な資料の数々が来館者を楽しませている。
「龍を見た男」は1975(昭和50)年、山形新聞で11回にわたり連載された。翌76年に善寳寺が辰(たつ)年御縁年を迎えることに合わせて書かれた作品で、庄内浜の強情で無信心な漁師・源四郎が主人公。漁でおいを死なせた罪悪感と善寳寺参り、自身の遭難と海で龍神を目撃した様子などが書かれており、心地よい読後感の物語だ。
企画展では連載時の初出紙をパネル化して展示。当時、洋画家で長く白甕社委員長を務めた故今井繁三郎さんが挿絵を担当しており、今井さんの略歴なども並んだ。パネルの下方には油戸や浜中など庄内浜の図絵を設置し、作品の情景をイメージしやすいような工夫が施されている。
また、藤沢さんが愛用していた創作ノートも展示。鶴岡へ帰省した際、善寳寺で聞いた話などを記したページをパネル化しており、藤沢さんの綿密な取材が感じられる。
このほか善寳寺の始まりとなった龍華寺と開祖の妙達上人など善寳寺にまつわる縁起や、善寳寺が所蔵する「昇龍ノ図」(一部)、藤沢さんにとって生前最後の家族旅行となった鶴岡の名所を巡る写真、庄内浜でかつて使われていた「ふりかご」(行商のアバが担いだかご)やさきおり(漁師が冬の沖仕事で来た着物)なども展示された。
展示は来年3月25日(火)まで。期間中、展示品の一部を入れ替える。関連イベントとして展示解説会を10月5日(土)、11月3日(日)、12月7日(土)の3回開催する。時間は各回とも午前10時半と午後2時から。また、小説に登場する鶴岡市内の各所を散策する「文学散歩」が10月27日(日)に行われる。来年1月18日(土)午後1時半からは朗読会が予定されている。問い合わせは藤沢周平記念館=電0235(29)1880=へ。