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地域情報化セミナー「地方に求められる情報産業企業」

「企業と智業の共働が支える地域」(3)

多摩大学情報社会学研究所所長・公文俊平氏
講演する公文氏の写真

前回もお話しましたが、新旧交代の局面とはどういうことかということをここであらためて復習してみたいと思います。私たちは、一昔前の産業革命の時代から、今は情報革命の時代に入っています。この情報革命の時代は、「近代」と呼ばれる時代の3つ目の局面です。近代の最初の局面は今から何百年か前のことですが、軍事革命が起きて主権国家ができ、人々はその国家の国民になりました。それから200年ほどしますと、産業革命が起こって私たちが知っているような企業、産業ができました。人々は国民であると同時に市民でもあるという意識を持つようになりました。市民は、企業の製品を買って使う消費者としての顔と、企業に雇われて働く従業員、あるいは企業の経営者としての顔をもっています。

しかし今日では、さらにその次の局面が始まっています。それが近代の第3局面としての情報化の局面です。そこでは、これまでの国家や企業に加えて、智業という新しいタイプの組織、つまりネットワーク型の組織が生まれ、軍事力や経済力に対して情報力・知力が発達し、人々は、国民でもあり市民でもあるのに加えて、“智民”と呼ぶのがふさわしいような存在になりつつあります。その意味での情報革命・智民革命が現在、社会変化として起こっています。やがては政治革命にまでなっていくでしょう。日本でもそう遠くない将来、政治は大きく変わるだろうと思います。

しかし、産業がなくなるわけではありません。それどころか第三次産業革命と呼ばれる新しい産業革命が今進んでいます。第三次産業革命の歴史的な役割は何かといえば、それこそ正に情報革命を支えることなのです。18世紀後半から19世紀にかけて起こった第一次産業革命は、経済を発展させたと同時に、国家を支えました。それによってイギリスは新しく再生できました。また逆に、国家が産業を支えることで、イギリスは産業革命をいち早く普及させることができました。

情報革命の主役は“智業”であり、智業のサポーターである“智民”です。これを象徴するのが、アメリカの雑誌の2006年の年末号の表紙でした。『タイム』は鏡のような何もない表紙を作り、自分の顔をそこに映してごらんなさい、2006年の主役はあなたなのです、といいました。その通りです。いまや私たち一人一人が情報社会の智民になっていて、その活動基盤がウェブ2.0のサービスであり、ウィキペディアのような誰でも参加できる百科事典であり、ユーチューブのように誰でも投稿できる動画共有サービスであり、SNSになってきたのです。

そして、そういう智民たちが共働することによって世界が変わっていく、そういう変化のことを『タイム』は「本当の革命」と呼びました。佐々木俊尚さんは、「フラット革命」と呼びました。巨大な組織とか政府が主役なのではない、私たち一人一人が主役になるという意味でフラットなのだ、そういう変化が起こっていると言いました。私はそれを「智民革命」と呼んでいるのです。

とはいえ、このフラット革命は、社会全部に一様に広がるというわけにはいきません。これまでは強い立場にあったとしても、こうした新しい流れに乗れず、おびえてしまって、ネットは危険だから規制しろという人もいます。逆に著作権など気にしないといって徹底的に暴走し、好き勝手をする人も出てきて、混乱が起こっています。しかし、それで社会が分裂してしまうのかというとそうではありません。より大きい長期的な視点でみますと、情報社会の新しい秩序が生まれてくることは間違いないと思います。それはかつて、産業社会が出てきた時に、世の中が混乱し、貧富の差が拡大して社会主義革命になるのではないか、と言われたのに必ずしもそうはならなかったのと同じことでしょう。

そのとき産業社会に勃興してきたのは、国家と国家の間の戦争(威のゲーム)ではなく、企業と企業との間の富のゲームであり、それを国家が支えました。あるいは企業連合ができて、市場のためのプラットホームを作りました。国家は軍隊とか警察、司法、立法、行政のような制度と機構を作って人々と企業の安全を保障してくれました。ですから、企業は商売をする時には自分の軍隊を持たなくても、国に税金を払って、安全を守ってもらうことで、安心して商売に励むことができました。それと似たような意味で、これからの情報社会の発展の中心は智業が行う智のゲームになっていくと思われるのですが、そのための場所、つまり産業社会でいえば「市場」にあたる「智場」の構築と運営を支援する、つまり智場のためのプラットフォームを作るという歴史的役割が、今度は国家だけでなく企業にも課せられているのです。

国家が作らなければいけないプラットホームは、言うまでもなく、これまでの市場を支えてきた安全保障とか警察、司法などの機構です。ただし、今回はそれに加えて情報社会での新しい権利や義務の関係、たとえば個人情報をどうするのかなどといった問題に対処するための新しい制度や機構も作らなくてはなりません。

企業にも、果たすべき新しい歴史的な役割が生まれました。人々がお互いに知り合い、つながり合うネットワークを支えるための各種のプラットフォームを、企業が提供することがそれです。人々は智業のサポーターであるだけでは生きていけませんから、智業に携わりながら一方で収入を得るための仕組みが必要です。

その一つとして、グーグルのアドセンスや、アマゾンその他のアフィリエイトのような広告と連動させた仕組みが生まれてきていますけれども、まだまだ不十分です。近年、人々の間の助け合い、贈与、取引などを支援するための電子通貨のシステムも急速に発達し普及してきましたが、それに加えて、投げ銭システムの普及も期待したいところです。

たとえば、新聞を読んで感動した記事をクリックすると10円が新聞社に送られ、その送料は無料であるとかいったことが世界中から送金料無料のシステムによって行われてるようになれば、総額として大きな金額が動いて、人々の生活を支えていくことになるでしょう。さらにデータセンターのようなものを作って、これまでの政府や企業の業務を代行するだけではなくて、智業が行うさまざまな智のゲームの活動の間を取り持つようなサービスを代行していくような、新しいタイプのプラットホームも考えられます。

何よりも企業自身が、これまでのような閉じた生産のシステムではなくて、ネットワークとしての開いた企業になっていくことが求められます。繰り返しになりますが、情報社会の企業はこれまでの企業とは二重の意味で質的に違ってくるのです。一つは、企業はそれ自身の営利に携わることは当然なのですが、「智業を支援する」という大きな歴史的な使命を担わされるようになることです。もう一つは企業の在り方自体が、「企業2.0」と呼ばれるようなネットワーク型になっていくことです。

>> 「企業と智業の共働が支える地域」(4)

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公文 俊平 (くもん・しゅんぺい)
わが国の情報社会学会の創設者。経済企画庁客員研究官、東京大教養学部教授、国際大グローバル・コミュニケーション・センター所長、代表など歴任し、現在は多摩大情報社会学研究所所長。
>> 多摩大情報社会学研究所
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