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地域情報化セミナー「地方に求められる情報産業企業」

「最新の地域情報化状況と地方における情報産業企業の必要性」(4)

GLOCOM助教・研究員 庄司昌彦氏
講演する庄司氏の写真

次に、全国を俯瞰して見えてきた、先進事例に共通する3つの傾向を紹介したいと思います。1つは「オフラインの活動の活性化」です。これは今まで紹介してきた通りですが、スポーツ大会や清掃ボランティアなど、飲み会や懇親会だけではない、いろいろなイベントや活動が起こっています。鹿児島テレビが運営している「Niki Niki」というSNSでは、みんなが集まれるカフェを作ろうということで、古いお店を改装して「SNSカフェ」を作りました。カフェの2階でネットラジオを放送したりもしています。それから「X(クロス)SHIBUYA」というSNSが渋谷にありますが、ここはクリエイターの支援に特化していて、毎週、勉強会と交流会をやっています。長野県の「N」というSNSでは、地元出身の音楽アーティストのイベントや、さまざまなアーティスト作品の展示イベントを善光寺や周辺の宿坊で開催したりしています。

2つ目の傾向は、「人と人とを意図的につなぐ」ということです。地域の中でも魅力的な活動をしているのにあまり人とつながっていない人がいて、新しいつながりを得たことで新しい活動が生まれるということがあります。運営者が仲介する場合もありますし、ユーザーが自発的につなぎあうこともあります。「Sicon」という会津のSNSでは、地域の外部と地域をつなぐという取り組みが見られます。旅館のご主人がまちづくりの勉強会・講演会を月2回くらいのペースで開催していて、講師を外部から呼んでくると、その講師をSNSに誘って講演に来られなかった人たちに紹介したり、継続的な関係を築いたりしているのです。

3つ目の傾向は、「いろいろなメディアをSNSと組み合わせる」ということです。SNSは基本的に会員制サイトですので、自分とその周囲にいる人の間でしか情報が共有されない傾向があります。そこで、SNS全体として話題を共有したり、外に向けて面白いことを発信したりするために、フリーペーパーやウェブマガジン、動画サービスなどを使ったり、既存のテレビやラジオと連携したりといった取り組みが見られます。テレビや新聞などの地方メディアが地域SNSの運営に乗り出すという事例もあります。

さらに、地域SNSの全体的な傾向を整理したいと思います。運営者・利用者についてですが、運営者は数としては民間企業が多く、全体の3割強を占めています。自治体は1割くらいです。利用者の年齢層は、ミクシィでは20-30代が全体の約8割を占めるのに対し、地域SNSの場合は平均すると40歳前後です。比較的年齢が高いのは、おそらく地域のイベントやまちづくりといった地域SNSに関連のあるテーマは、幅広い層に関心がもたれているからではないかと考えています。また、もっと年齢の高いパソコンが苦手な人たちにも地域SNSを使ってもらおうと工夫を凝らしている例があります。先ほどの西千葉の「あみっぴぃ」もそうですが、パソコンが苦手な人に講習会をしたり、サポートしたりしています。いったん使い方を覚えると、シニアの方々のほうが熱心に文章や写真、動画をSNSにアップするなどということもありますので面白いです。また、30-50代の女性が盛り上がってくるとSNSが活性化してくる、という印象を受けています。

参加者数については、最も多いのは佐賀新聞が運営している「ひびの」で約8000人を超えています。その他にも数千人規模のものがいくつかありますが、最も多いのは数百人規模のものです。今後、何十万、何百万という人々が参加する地域SNSが登場するのか、それとも数百人数千人で最適化されていくのか、というところは非常に興味深いです。どうやら「居心地のいいネットコミュニティの大きさ」というものがあるようで、今の様子では数十万、数百万人のSNSはできないだろうという印象を持っています。先ほど紹介した兵庫県では、ひょこむのほかに、市町を対象とするSNSがいくつかでき始めています。今後は市町レベルのSNSと、県レベルのSNSなど、いろいろなネットコミュニティが縦横に連携をしていくようになるのかもしれません。

SNSの目的は、行政への住民参画や防災のほかに、市民活動の支援、地域密着ビジネス、観光情報の発信などさまざまです。

地域SNSについて詳しく紹介してきましたが、もう少し視野を広げて、地域情報化が今後どうなっていくのかということについて、そのカギとなるお話を2つしたいと思います。まず1つは「地域情報化アドバイザー」制度です。これは2008年1月から総務省が始めた仕組みですが、地域活性化に取り組む地域に、国の負担で地域活性化の知見を持つ人をアドバイザーとして派遣して、人づくりも含めて総合的に支援するというものです。単に講演をして帰るというのではありません。地域情報化の推進を考えている地方自治体は積極的に活用すればいいと思います。

それから、日経新聞の「日経地域情報化大賞」というイベントからは、こんな傾向が読み取れます。今年度の地域情報化大賞では、和歌山県北山村の「村ぶろ」、静岡県浜松市の「はまぞう」という地域ブログポータルサイトが表彰されました。これは、地域の人々が書いたブログを集めたサイトです。この「村ぶろ」をやっている北山村では、村長も自ら積極的にブログを書いています。しかも数百人の村なのに数千人の「バーチャル村民」と呼ばれる会員がいて、非常に活気があります。浜松の「はまぞう」も同様です。「村ぶろ」や「はまぞう」の例をみると、地域ブログと地域SNSが接近していると感じます。地域ブログはブログを集めてブログポータルという一種の地域メディアを作り、地域SNSもウェブマガジンなどのメディアを持とうとしています。一方、新聞社やテレビ局などの地域メディアは、コミュニティが欲しいということでSNSに乗り出してきたり、記者や地域の著名人を前面に出したブログを運営し始めたりしています。さらに、地域SNSでは、SNSの中だけで情報を閉じるのは勿体ないということで日記を外部公開できるようにするものが出てきています。ブログの方では、ブログを書いている人をつなぐ機能が欲しいということでSNSを運営したり、オフ会を運営したりし始めています。つまり、「地域ブログ」「地域SNS」「地域メディア」の3つが接近し始めているのではないか、と私は考えています。それに近いことをしているのが、もうひとつ、地域情報化大賞で表彰された長野県須坂市の「寄ってたかって信州須坂発信プロジェクト」です。できることは何でもやろうということで、ポータルサイトもやるし、SNSもやるし、動画配信もやるなど、とにかくいろいろなことをしています。

地域情報化という言葉の意味は少しずつ変化していまして、最近は「メディア」とか「人」が重要な要素になっています。インフラ整備や地域の企業のための業務用システムが重視された時期もありましたが、近年は地域の住民自らが情報を発信するメディアが重要になってきています。SNSもこの流れに位置づけることができるでしょう。

そして最後に、地方における情報産業企業についてですが、そういった企業が今後地域で作られていくならば、「地域で人をつないだり、つなぎ直す」という役割を担っていくことが求められると思います。地域内の人々・企業・団体の結束を強化するようなイベントを実施したり、メディアを運営したり、橋渡しをしたりすること。それから「外から人を連れてきて、その関係を維持する」という役割も重要です。それをビジネスとして言い換えると、SNSを運営して、コミュニケーションや地域性に応じたサービスを提供する。メディアを上手く活用して地域の情報を外部に発信する。ネットだけに頼らず、多面的に地域社会の情報流通や協調行動を支援していく。狭い意味でのITにとどまらない、総合的な役割が求められていくんだと思います。オフラインのマネジメントも含めた、技術と運営の成功モデルができれば、ほかの地域に移植することも可能かもしれません。それが一つのビジネスになったりするわけです。このような活動が地域に密着した情報産業企業によって担われることを期待しています。

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庄司 昌彦 (しょうじ・まさひこ)
国際大グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)助教・研究員。専門は情報社会学、政策過程論、地域情報化、ネットコミュニティなど。
>> 国際大グローバル・コミュニケーション・センター
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