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郷土の先人・先覚46

大川周明

見識文章、共に絶倫。
多年興亜経論を展(の)ぶ。
痩躯六尺、英雄漢。
睥睨(へいげい)す、東西古今の人。
危言厄に遭うも道何ぞ窮せん。
幾度か身を投ず、囹圄(れいご)の中。
筆は秋霜を挟み、心は烈日。
果然頽世(たいせい)、清風を起す。
立言何ぞ遜(のが)れん、立朝の勲。
時、艱難に際して嗟す。
君を喪うを。
渺々たる魂(こん)けい、招けども返らず。
哀歌空しく対す、暮天の雲。
哀輓(あいばん)
大川周明氏の写真

冒頭の詩は、昭和33年2月15日東京青山斎場に於いて大川の葬儀の日、徳川義親を委員長とし、大川周明の霊前に捧げられたもので、庄内が生んだ漢詩人でもあり、書は当代第一といわれる土屋竹雨の「哀輓三章」の漢詩である。

周明の波乱にみちた生涯は、自伝『安楽の門』にくわしい。

現代中国の文学と思想に於いて伝統化した魯迅の『野草』『阿Q世伝』の翻訳や『大川周明のアジア研究』の著者で知られる竹内好は『安楽の門』についてを「晩年に自己の宗教的自覚の過程を振り返って綴った一種の精神的自伝。西洋哲学からインド哲学へ、さらに日本主義へという彷徨は同時代のエリートにかなりの共通性がある。その交友関係にもアジア主義を解く鍵がある」と『アジア主義とは何か』で紹介し、植民地問題にも触れている。

アジア植民地解放の源流をたどると、岡倉天心の「アジアは一つなり」に行き着く。中国の国父・孫文が「三民主義」で中日連合を中核としたアングロサクソンのアジア支配から全アジアを防衛し、日本を推進力とする大アジア主義における「大亜洲主義」の提唱に通じるもので、アジアの解放と独立の根拠として周明は、日本、中国、インド三国の魂を1つにまとめ、文字通りアジア民族の解放の理論的指導者として奔走したのである。

周明は、明治19年12月6日酒田市西荒瀬藤塚に生まれた。父・周賢、母・多代女の長男である。彼は荘内中学時代、藩学の大儒角田俊次に師事、藩学の講義を受け、その際に「南洲翁遺訓」に接し、大西郷の偉大な魂を師と仰ぎ、また横井小楠の見識に傾倒した。

熊本の五高から、東大文科に入学、インド哲学を専攻した。一時は終生僧侶たらんと思ったことがあるが一日、古本屋で、サー・ヘンリー・コットン著『新印度』を求め読破するに及んで、ウパニシヤード、仏陀のインドの現実がさながら地獄であることを発見し、憤然としてイギリスの植民政策打倒の思想を抱くのである。

この時以後彼は「アジア植民地解放」の旗印を掲げ、宗教、哲学的な印度研究は近世ヨーロッパ植民史及び植民地政策の研究へと方向を変える。

東大在学中、宇井伯寿、椎尾弁匡、宇野円空などを友とした。宇井は仏教学の世界的権威であり、椎尾は浄土宗の高僧となり、宇野は宗教民族学で一新生面を開拓した。

大正8年、東亜調査局編輯課長に抜擢され、同9年拓殖大学長・後藤新平と相識り、同大学で植民史を担当。盟友・北一輝と共に「猶存社」「行地社」「神武会」を創立する。行地社は大正13年4月創立され「維新日本の建設」「有色人種の解放」の綱領を掲げ、維新日本を建設するにあった。また、猶存社時代、革命指針として「ドイツの左、ロシアの右」を説き、後年共産社会主義に対しては、社会主義はもとこれ資本主義と同根であり共に能率主義たるにすぎないと喝破した。

昭和20年8月15日、英・米・ソ三国共同宣言受諾。大川は、わが40年の興亜の努力も水泡に帰すと日記に記した。

チャンドラ・ボースとラス・ビバリー・ボースのインド国民軍は大川の最も期待したところであった。「アジアの解放」を叫んだチャンドラ・ボースは彗星の落ちるごとく台北で墜落死した。首都ニューデリーの中央広場にはインド独立の英雄としてチャンドラ・ボースは堂々と銅像となってアジアを見つめ続けている。

竹内好はアジア経済研究所でおこなった大川周明のアジア研究の講演内容に、大川の『回教概論』『古蘭(コーラン)』はイスラム研究の最高水準をいっていると語っている。

小夜嵐みねの落葉は埋もれてわが行く道は知る人ぞ知る ―周明―

(筆者・佐藤昇一 氏/1988年6月掲載)
※原稿中の地名や年などは紙面掲載当時のものです。

プロフィール

大川 周明 (おおかわ・しゅうめい)

旧西荒瀬村藤塚の医師・大川周賢の長男。荘内中学(現・鶴岡南高校)から旧制五高、東京帝大と進み、卒業後、宗教雑誌「道」の編集、参謀本部の依頼で翻訳に従事した。大正7年南満州鉄道に入社、昭和4年財団法人東亜経済調査局理事長、同14年法政大学教授大陸部長に就任。同32年12月24日71歳で死去。光丘文庫に和・漢・洋の蔵書3000冊余を「大川文庫」として保管。

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