「庄内の弁慶飯はもともと青菜ではなく、体菜(たいさい)を使っていたんです」。シリーズを始める前の情報交換で、県庄内総合支庁酒田農業技術普及課の担当者に教えてもらい、体菜という野菜に興味を持っていた。いつか取材したいと思っていたが、過去3年間、タイミングが合わず、今回、ようやく実現した。
「このあたりは強い風が山に遮られるせいか、軟らかい体菜ができるようです。持っていくと、朝のうちに売り切れてしまうんですよ」。酒田市のめんたま畑で体菜を販売している後藤千代子さん=北俣=が話す。後藤さんの自宅は観光名所「十二滝」の入り口にある。周囲を山に囲まれた盆地のようなたたずまいで、確かに強風を防いでくれそうだ。
弁慶飯に使われると聞いていたので、青菜のような濃い緑色の葉野菜をイメージしていた。実物を見せてもらうと、茎の部分は白く、葉は白菜のような薄い緑色だ。「年配の人はしゃくし菜と読んでいたそうです。根元がしゃくしのような形をしていているからでしょう」。後藤さんが1枚の体菜を茎ごと抜いてすくい取るしぐさをして見せた。
「弁慶飯に使ったそうですね」と水を向けてみた。「みそを付けたおにぎりを塩漬けした体菜の葉でくるんで焼き、学校に行く際、背負っていきました」と、後藤さんが子ども時代を懐かしむ。おすすめレシピの塩漬けは3日目ぐらいから食べられる浅漬けタイプ。「越冬用なら倍ぐらい塩を使ってください。昔は、大きなおけに表面が真っ白になるほどの塩で漬けて、4月まで食べたものです」。
塩蔵した体菜の使い方について「熱湯に通してから水にさらして戻します。ゆでた豆との煮浸しにぴったりです。カラトリイモと塩蔵した体菜を入れ、酒かすを加えたみそ汁もおいしいです」と教えてくれた。
帰宅後、体菜で浅漬けと塩漬けを作り、残りは白菜の代わりに鍋に入れてみた。鍋物に使うと、白菜とチンゲンサイの中間のような感じがする。好みもあろうが、さっとではなく、しっかりめに煮た方がおいしいと思った。
翌日、浅漬けを試食してみると、サクサクとしておいしい。3日間待って、弁慶おにぎりにしてみた。焼いていると、みそと漬物の香ばしいにおいが台所に立ちこめる。漬け方もあるかもしれないが、青菜より緑色が強い。辛みは青菜より少ない気がしたが、青菜とは違った弁慶飯を味わうことができた。
後藤さんの体菜は1束100円。酒田市飛鳥のめんたま畑=電0234(61)7200=で販売している。年明けには塩蔵した体菜が登場する。
体菜10kg、塩500グラム、水
3日目ぐらいから食べられる。塩の量は体菜の5%が目安だが、越冬用は倍にする。
2009年11月7日付紙面掲載