「山菜の王様」。タラノメにはそんな表現がよく似合う。数ある山菜の中でも天ぷらは秀逸だろう。揚げたてをほおばったとき、幸福感を味わう人は多いのではないか。
こんな思いを口にすると、「一番はやはり天ぷらですね」。鶴岡市の産直あぐりの副組合長で、促成栽培のタラノメを出荷している佐久間豊雄さん=西荒屋=が「得たり」といった表情で賛意を示してくれた。
ハウスでタラノメの促成栽培を手がけて20年余り。「ブドウが主力作物。冬場の副業みたいなものですよ」と謙遜するが、佐久間さんの早出しタラノメを目当てにあぐりに足を運ぶファンも多い。
秋のうちに翌年用の主幹を残して原木を切り落としハウスに運ぶ。「細いのは長く、太いのは短く」そろえ、年が明けてからはハウス内の気温を15~20度に保ち成長を促す。
「いつもなら3月に入ってから収穫するんですが、今年は1週間から10日ほど早い。2月23日ごろに採り始めました」。記録的な暖冬で、ハウス内の春の訪れも早まった。「今年は暖かくてストーブをたく必要もないぐらいでした」と笑顔を浮かべる。
ハウス栽培のタラノメは高級食材、というイメージがあるが、「あぐりのお客さんは、ほかの野菜と組み合わせ、天ぷらダネとして買っていくようです。そう考えれば、それほど高くもないのでは」と話す。50g入り1パックには8個前後のタラノメが入っている。価格は200円前後だ。
天ぷら以外の料理法といえば、ごま和えやクルミ合えなどが思い浮かぶ。佐久間家ではみそ汁にも入れるという。「細かく刻んで香りを楽しんでください。自然のものには及ばないかもしれませんが」。タラノメのみそ汁とはぜいたくな。 佐久間さんのおすすめレシピはタマネギとの卵とじ。「一つの料理例。もっともっとタラノメを食べてほしいんです」という願いが込められている。
仙台市と郡山市に住む娘さんたちがゴールデンウイークに帰省すると、タラノメをたくさん食べていくそうだ。「向こうでは高くて買えないでしょうからね」と笑う。
新鮮なタラノメの見分け方について「切り口が白いものを選んでください」と教えてくれた。佐久間さんのタラノメは朝取りで即日売り切りだから鮮度は抜群だ。
帰宅後、「味見してみて」とちょうだいしたタラノメを天ぷらにしてみた。塩で食した熱々のタラノメはまさに春の味。香りは天然物に比べても遜色はないと感じたが、みそ汁に入れる勇気はどうしても出なかった。今後への課題としたい。
佐久間さんのタラノメは今月いっぱいあぐりで販売し、その後は天然物にバトンタッチする。
タラノメ、タマネギ、卵、しょうゆ、だし、サラダ油 と砂糖各少々
2007年3月10日付紙面掲載