名前を見て分かる通り、今回の素材は中国野菜。紅菜苔と書いて「こうさいたい」と読むのだそうだ。紫色の茎、薄い緑色の葉という取り合わせが好奇心をくすぐる。「どんな味がするのだろう」。鶴岡市の産直館駅前店で実物を見た後、こんな思いを抱きながら生産者の阿部宰子さん=林崎=を訪ねた。
「火を通すと、紫色が緑に変わるんです」。阿部さんが愉快そうに話す。「そんなばかな」と思っていると、皿に盛りつけた紅菜苔を持ってきてくれた。なるほどホウレン草に似た鮮やかな緑色、これは不思議だ。
紅菜苔はアブラナ科の葉野菜で、揚子江の中流地域が原産地。日本に入ったのは昭和10年代と古いが、1970年代以降、普及してきたらしい。
「スーパーで見つけて、こんな野菜もおもしろいな、と思ったんです」。阿部さんが栽培を始めたきっかけは偶然の出会いだった。以来3年がたつが、店頭でお目にかかることは2度となかったそうだ。
「甘みがあって私は好きです。アスパラ菜と似ているかもしれません」。勧められ、ゆでた紅菜苔を口に入れた。甘みが広がり、意外に癖がない。アスパラ菜と確かに似ているが、違った意味で春を感じさせる野菜だ。
阿部さんに食べ方を聞いてみた。「私の場合はゆでてマヨネーズあえ。炒め物もいいらしいですが、ほかの料理はしたことがありません」ときっぱり。
先端の部分に菜の花のような花芽が付いている。「取材に来てくれるというので花芽は塩漬けにしてみました。どんな味がするか楽しみです」。後日、感想を聞いてみると、「しゃきしゃきして歯ごたえもありおいしかった。春の味がしました」と教えてくれた。
帰宅後、いただいた紅菜苔をゆでてみると、紫の色素が抜けて緑色に変ぼうした。お湯の色が赤っぽくならない。あの紫色はどこに行ってしまったのか、まさに不思議の世界だ。
翌日、いため物にも挑戦した。中国野菜だけに油との相性は抜群だった。ほのかな苦みが春の到来を思わせる。火が通ると、紫色はやはり消えてしまった。阿部さんが「アスパラ菜と似ているので天ぷらもいいかも」と話す天ぷらもぜひ試してみたい。
「今年はたい肥をたくさんやったので、いつもより甘みがある」という阿部さんの紅菜苔。とてもおいしい野菜なのだが、不満がある。漢字と読み方が覚えにくい。家族に「これなんていう野菜」と聞かれ、「ええと…。忘れた」と答えてしまった自分が情けない。価格は100~120円。鶴岡市日吉町の産直館駅前店で4月上旬まで販売している。
紅菜苔、マヨネーズ、塩
2008年3月21日付紙面掲載