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産卵前がうまい岩ガキ

夏の庄内浜の味覚を代表する岩ガキが水揚げされています。皆さんはもう「初物」を召し上がったでしょうか。今回は、岩ガキの話をしたいと思います。

冬に食べるマガキと違って、岩ガキは産卵前の夏が旬です。岩ガキはマガキより大きく成長し、消費の大半は生食といっていいでしょう。秋田から山陰地方の日本海側に生息し、ほとんどが天然物。山陰の一部では養殖事業も行われているようです。これに対してマガキは養殖が大半です。養殖ガキの名産地は広島、三陸、北海道の厚岸といったところでしょうか。

庄内の岩ガキに話を戻します。庄内浜は、周囲の海より5度ぐらい水温が低いという特徴があります。水温が低いと産卵の時期が遅くなります。カキは産卵前に身が大きく膨れます。これが「海のミルク」と呼ばれるものです。その時が最もおいしいのです。

岩ガキがおいしい季節になりました。皆さんはもう召し上がりましたか

産卵の時期はカキがすんでいる水域の深さでも変わってきます。深い方が水温が低いからです。岩ガキ漁は、浅いところでは磯見舟を使った磯見漁、深い場所は人が潜って採る潜水漁で水揚げされます。一般論では、シーズン当初は浅瀬のカキ、後半は潜水漁で採った深い海域のカキがおいしいと言えるかもしれません。もちろん、個体差があるので、「絶対」ということではありません。

産卵の時期は、河口付近と沖合でも違いがあります。海水に川の水が流れ込む河口付近の方がカキの成育は早いようです。また、山陰地方など南の海域から成育が進み、北上してきます。岩ガキには消波ブロックに生息しているものと、岩に張り付いているものがいます。消波ブロックのカキだからと言って、品質が劣るというわけではありません。水揚げ後、漁師さんがカキをきれいに掃除してから出荷するので、市場に入ってきた時点ではどちらのカキか判別しにくいというのが実態です。

岩ガキには外観がV字型のものと丸や楕円のものがあります。後者を平(ひら)ガキと呼んでいます。形がよく、皿に載せたときに安定するせいか、料理屋さんやすし屋さんは平ガキを好むようです。このため、平ガキの方が高値で取り引きされます。

日本人は魚を生で食べ、西洋人は加熱してきましたが、ことカキに限っては違うようです。フランス料理では生ガキはオードブルの定番でもあります。欧米では普通、魚介類は生で食べません。でも、カキはローマ時代から生食していたと言いますから、例外だったのでしょう。

一方、日本では縄文時代からカキを食べていたことが遺跡の出土品から分かっています。カキ、つまりマガキの養殖は、室町時代が起源とされています。でも、欧米と違って、産地以外では生では食べず、加熱していたようです。日本ではカキは本来、加熱して食べる食材だったのです。ところが、明治以降、西洋料理が入ってきて、カキを生で食べるという文化が生まれたようです。日本は魚の生食の「本場」です。でも、カキに限っては欧米から生食文化が輸入されたのです。面白いことだなあと、わたしも思いました。

カキの話題、食中毒については、荘内日報が今月末に発行するフリーペーパー「敬天愛人」8月号でも触れました。わたし自身、体調の不良が原因でカキに当たり、1週間ほど入院した経験があります。1度食中毒を経験すると、カキは食べたくなくなると言います。でもわたしは、生で食べられるまでに「復帰」しました。どうすれば、カキが食べられるようになるかについて、「敬天愛人」の中で紹介しています。興味のある方にぜひ読んでほしいと思います。おいしい庄内の岩ガキを生で食べられないなんて、不幸なことだと思うからです。

(鶴岡水産物地方卸売市場手塚商店社長・手塚太一)
2009年6月25日付紙面掲載

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