読者から「最近、スーパーで福島・相馬産(相馬市)の魚をよく見るようになりました。クチボソは地物より安いという話がこのコーナーに出ていましたが、相馬の魚は以前から庄内にも来ていたのでしょうか。変わったもの、おいしいものはありますか」という質問をいただきました。
相馬の魚は、50年以上前から庄内に入っていたそうです。相馬で捕れる魚は、クチボソが圧倒的に多く、東北でも一番の水揚げだと思います。それではなぜ庄内に来るようになったのでしょう。
庄内は、クチボソを好んで食べる土地柄として業界内で知られています。産地の人にも「このマチの規模でよくこれほどの消費量がありますね」と言われます。小売店でもクチボソはよく売れる魚の一つです。
戦後の間もないころ、宮城県亘理町の荒浜港というところで底引き網漁が栄え、クチボソが捕れたそうです。魚は消費地に流れるという法則があるので、需要が多い庄内に来たのです。荒浜でその後、クチボソがあまり捕れなくなり、漁場はそれより北の宮城県名取市の閖上(ゆりあげ)に移動し、閖上港から庄内に運ばれるようになったのです。そして福島県相馬沖に漁場が移ったという流れのようです。
福島のカレイを鶴岡の市場ではゆりあげガレイと呼びます。「そのゆりあげ1箱もらう」といった具合に市場で取引されているのです。地名が商品名になってしまった例と言えるでしょう。ホタテ貝にもこれと似た話があります。ホタテ貝は庄内浜では捕れませんでした。他県から流通してきたホタテ貝の箱に「大貝」と書いてあったことから、ホタテ貝を今でも「大貝」と呼んでいます。
相馬の港は、サンマ漁の船はないものの、19トン以上の大型船が30隻もあるそうです。同じ福島県のいわき市は10隻ぐらいしかないことを考えると、大きな産地と言えるでしょう。福島県で捕れるおいしい魚にドンコというのがあります。黒いゼラチン状のこの魚が名物で、鍋やお吸い物にして食べるそうです。ほかにズワイガニもたくさん捕れます。
現地で好まれる魚にイシガレイがあり、子持ちのイシガレイは正月に欠かせないもののようです。
相馬ではクチボソをアカジガレイと呼びます。青森ではアカガシラと言われていますが、その由来は調べても分かりませんでした。
話題は変わりますが、昨年の3月に生のコアミが「幻の味」になるかもしれないという話をしたことを覚えていますか。おそらく今後、生食用のコアミが店頭で販売されることはないと思います。
問題の発端は秋田県でした。秋田市内の小売店に出回ったコアミに寄生虫のアニサキスが見つかり、回収するという騒ぎが起きたのです。
漁や販売の段階でアニサキスを取り除くというのは現実的には無理です。コアミ漁は昔から漁法も変わっていませんし、食中毒も起こさずにみんな食べてきました。塩辛用や加熱用は販売が可能でも、生食用としては売ることができません。私もとても残念に思っています。
(鶴岡水産物地方卸売市場手塚商店専務・手塚太一)
2008年2月13日付紙面掲載