文字サイズ変更



  • プリント用表示
  • 通常画面表示

地域情報化の未来像を探る 地域情報化フォーラム

情報社会における地方の目指すビジネス展開(3)

多摩大学情報社会学研究所所長・公文俊平氏
講演する公文氏の写真

それでは第三次産業革命という観点から世の中を見てみるとどういうことになるでしょうか。これはもうがらっと風景が違いまして、新しいビジネスが渦を巻くような形で発展している。世界的にいわゆるIT産業、ICT(情報通信技術)産業、と呼ばれている新産業がこの50年間に発展に次ぐ発展を遂げてきました。私たちは今、コンピューターに囲まれているばかりか、携帯電話からさえインターネット接続が当たり前という時代に暮らしています。そして、インターネットで物を買い、広告を見る、若い人たちは携帯でゲームをし小説を読む、それが当たり前の生活になっている。この分野での経済成長の大きさはほとんど統計が取れていないので、非常に低くしか評価されていません。どうしてかといえば、取りようがないんです。いまのパソコンには100ギガとか200ギガのハードディスクが入っているのが当たり前です。そのハードディスクの値段は今買うならば3万から5万円。ところが、私が今から30年ほど前に初めてハードディスクを1台買ったときには20メガのものが1台30万円でした。ですから200ギガだと容量は1万倍になり、値段は6分の1から10分の1になっています。

これを経済成長として考えるととても大きなものになりますが、現在の経済統計はそのような取り方をしていませんから、第三次産業革命の成し遂げている大きな形成成長効果は、数値としてははっきりしないままで残されています。その第三次産業革命が、これからさらに新たな突破に向かって進んでいます。それは、環境の中に、あるいは人間の体の中に機械が入っていく形で進むのかもしれません。そして、産業化の先進国だけではなくて、途上国にもIT産業の発達は及んでいるのです。インドや中国のような、とても産業化はできないと思われていた国が1990年代から急激な成長を遂げ、大躍進しました。今では先進国の大きな競争相手として台頭してきています。

そういう変化は首都だけに見られるかというと、そんなことはありません。特にアメリカではマイクロソフトにしても、ヤフーにしても、アマゾンにしても、Googleにしてもニューヨークに本社を持っているわけではありません。マイクロソフトはレドモンドという小さな都市に、アマゾンやGoogleはカリフォルニアの小さな町にあります。日本だって、この3カ月の間にみんながあっと驚くような大成功をした会社が札幌市に出てきました。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが「クリプトン・フューチャー・メディア」という小さな会社です。ここが「初音ミク」という名前のデスクトップミュージック、つまりコンピューターで音楽を作るソフトウエアを開発しました。

声優さんの声を音源にして、それを使って声を合成して歌を歌わせ、演奏もさせる。そんなもの良くて1000本も売れれば大成功だといわれたのが、2カ月間で2万本売ってしまったんです。まだ、その躍進は続いていて、インターネットの上で、例えばニコニコ動画のようなサイトに行くと、この初音ミクを使った曲がたくさんあります。私としてはそれがどんなふうにいいのか、あまりピンとこないんですが、ともかく音楽のプロというよりは比較的普通のアマチュアの方々が自分で作曲し、自分で楽しめる、その結果をみんなと分け合うことができる、そういう点が非常に面白いところなんだと思います。

以上はほんの一例ですが、新しい情報通信関連の企業を起こして成功する人は、この数十年間でたくさん出てきましたね。20代、30代で億万長者になった人もごろごろいます。クリプトン・フューチャー・メディアのような企業を起こして成功し、さらにこれがGoogleなどに買収されるとなれば何百億、何千億円の値段がつきます。そのような成功物語が目の前にいくつもあるわけです。しかし、同時にそれに取り残される組織や地域、個人もいたるところにいて、まだら模様になっています。情報化に、あるいは第三次産業革命に乗り遅れた企業とか自治体の未来は非常に惨めです。ましてやブロードバンドインフラがない地域はどうすることもできない。あってもそれを使えない、理解できない方々、特に中高年の方々。これは何も教育のない方々ではありません。むしろ学歴もあり、輝かしい経歴を持った方々であっても、ことITとなると「俺の知ったこっちゃない」「そんなの分からんよ」というような人は取り残されていく一方になります。そうした意味で、富の格差ではない、新しい格差も出てきています。技術の格差、知識の格差ですが、それを指して「デジタルデバイド」と言います。途上国の人々は「デジタルデバイドが起きてはならない」と強調しますが、困ったことにデジタルデバイドの言葉の意味さえ理解できない人が先進国にも結構いる。こういうまだら模様になっています。

三つ目に、「情報革命」という視点から今日の社会変化の流れを見ると、ビジネスの話とは違う形で、全国各地にいろいろな新しい動きが起きています。新しい活動家、新しいリーダーと呼べるような人が続々と出てきています。例えば佐賀にある企業家を育成するための塾「鳳雛塾(ほうすうじゅく)」。富山から始まり、そして全国的に広がろうとしている、誰でも講師になってインターネット上で自分の得意なことを講義し、お互いに教え合う「インターネット市民塾」。それから、熊本では住民がディレクターとかプロデューサーとなり、自分たちで技術を学んでテレビ番組を作って放送をしています。今は普通の放送局で放映していますが、今後はインターネット上で放送する方向で進んでいます。新潟県には「佐渡、お笑い島計画」という非常に面白い試みがあります。いま、こういった動きが全国的にネットワーク化しつつあります。私どもは、「CANフォーラム」という活動家のネットワークを作って、この10年ほどいろいろな試みをしてきました。越中富山のインターネット市民塾と肥前佐賀の鳳雛塾は、「越肥同盟」という地域同士の同盟を結び、連携してやっていこうとしています。

>> 「情報社会における地方の目指すビジネス展開」(4)

◇     ◇

公文 俊平 (くもん・しゅんぺい)
わが国の情報社会学会の創設者。経済企画庁客員研究官、東京大教養学部教授、国際大グローバル・コミュニケーション・センター所長、代表など歴任し、現在は多摩大情報社会学研究所所長。
>> 多摩大情報社会学研究所
トップページへ前のページへもどる
ページの先頭へ

Loading news. please wait...

株式会社 荘内日報社   本社:〒997-0035 山形県鶴岡市馬場町8-29  (私書箱専用〒997-8691) TEL 0235-22-1480
System construction by S-Field