文字サイズ変更



  • プリント用表示
  • 通常画面表示

地域情報化の未来像を探る 地域情報化フォーラム

情報社会における地方の目指すビジネス展開(4)

多摩大学情報社会学研究所所長・公文俊平氏
講演する公文氏の写真

こういった動きはごく一部のリーダーや活動家に限られているのではなく、むしろ非常に多くの人々がいろいろな意味で知的に成長して表現力を持つようになりました。去年出たベストセラー『ウェブ進化論』を書いた梅田望夫さんの言葉を借りるならば現代の社会は「総表現社会」です。つまり、私たちは自分で自分を表現することができるようになってきています。今や日本でもブログ人口は2500万人を超えているでしょうか。そのくらいの多くの人がブログを書いています。携帯で小説を書いている人もいます。YouTube、ニコニコ動画に自分の撮った動画を投稿する人も大変な数です。そうした人々は、知識や情報を、売るためのものとは考えていません。お互いに楽しむために、分け合うために、助け合うために、面白い情報を見せ合って、それをもっとよくしていこうということをやっています。これは、広い意味での「智のゲーム」と呼ぶことができると思います。

先に、産業化の特徴は機械化にあると申し上げました。その産業化の2番目の特徴は「商品化」です。つまり物やサービスを「売り物」として作る。そして人々はそれを買う、こういう関係で世の中を動かしてきました。情報社会ではもちろんそれも残りますが、基本的に情報や知識、あるいはモノやサービスは売り物ではなく、「分け合うため」「助け合うため」「楽しむため」に作られる。そして、それらを作り合う活動を支援するためのインフラが作られます。光や無線のネットワーク、その上に乗っているプラットフォームとしてのインターネット。そうしたものは「智民」たちの新しい活動を支援するためのインフラであり、プラットフォームです。もちろん、こうしたインフラは通常のビジネスを支援するためにも使えますが、例えばGoogleなどの一番大きな狙いは、ありとあらゆる知識を体系立てた形で人々に提供し、それを人々が自由に使いこなして、さらに新しい知識を積み上げていく、それを支援することです。それが自分たちのビジネスの目的であるとうたっています。その結果としてGoogleは非常に上手なビジネスモデルを作り、ネット広告でたくさんの収益をあげることができていますが、Googleにとってみればそれは基本的な目的に付いてくるものと考えているようです。

そして、第三次産業革命の生み出した新しいビジネスこそ、まさにこの種の新しいインフラやプラットフォームを作るビジネスでもあります。人々が総表現社会を作って、ブログや動画を発信したり、分け合ったりする中へ広告を流し込むという形で、きわめて効率の良い広告が提供できるといった、情報社会のすき間に入っていくようなビジネスができるわけです。それからもっと面白いのは、今はまだ非常に初期的な形ですけれども、Googleの「アドセンス」という仕組みがあります。これはブログを書いている人がGoogleと契約し、例えばブログに「鶴岡に行ってアル・ケッチァーノでイタリア料理を食べたらおいしかった」などの記事があったとしたら、そこにアル・ケッチァーノの広告が載るんです。その広告を誰か読者がクリックしたら、ブログを書いた人にも広告料の一部が支払われるという仕組みです。まだ、それだけで十分食べていけるほど稼いでいる人はそんなにいないでしょうが、それでも月3万から5万円程度の収入を自分のブログから得ている人の数は結構いるんです。そういう仕組みをGoogleは作りました。それは、「智民」たちが、食べていくための心配をそれほどしなくても、楽しいことをやっていると自然に収入がついてくるような仕組みです。アマゾンの「アフィリエイト」というものもそうです。こういった仕組みは、情報社会が発展していくための下支えになりますが、それを提供するという役割を、今や第三次産業革命を担う企業が果たすようになってきているのです。

以上の話をまとめます。まず、悲観的にまとめるとどういうことになるか。地域の現在はそれなりの豊かさを享受した後、長期的には衰退と崩壊に向かっている。そして、情報革命の中ではいろいろなデバイドに悩まされている。ここから地域を再生させることができるかということが課題なのですが、第二次産業革命の帰結としての郊外化はいずれ終わり、緩やかに衰弱していく画一的な地域が後に残るでしょう。若者はニート化し、モノの消費さえろくにしなくなる。ファストフードを食べて、大量生産の安い衣類を着て、あとはゲームか何かやっていれば一日1000円か2000円あれば暮らしていける、こういう状態になります。その人たちが落とすお金の額はたかが知れているわけですし、さらに地域が第三次産業革命にも取り残されているとすれば、地域経済も崩壊する宿命にある。そして、情報革命にも無理解であるとすれば、地域は誰にも知られずに忘れ去られて、自然になくなっていくことになります。

>> 「情報社会における地方の目指すビジネス展開」(5)

◇     ◇

公文 俊平 (くもん・しゅんぺい)
わが国の情報社会学会の創設者。経済企画庁客員研究官、東京大教養学部教授、国際大グローバル・コミュニケーション・センター所長、代表など歴任し、現在は多摩大情報社会学研究所所長。
>> 多摩大情報社会学研究所
トップページへ前のページへもどる
ページの先頭へ

Loading news. please wait...

株式会社 荘内日報社   本社:〒997-0035 山形県鶴岡市馬場町8-29  (私書箱専用〒997-8691) TEL 0235-22-1480
System construction by S-Field