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地域情報化の未来像を探る 地域情報化フォーラム

ウェブが創る新しい郷土~地域情報化のすすめ~(2)

評論家・丸田一氏
講演する丸田氏の写真

地域SNSは、2006年8月の段階で全国に100に満たない程度でした。ちなみに2006年8月時点での地域SNS分布をみると、西高東低の様子を示しています。今では東北にもたくさんのSNSが立ち上がり、全国で400から500に拡大しています。この中で最も早く立ち上がったのが熊本県八代市の「ごろっとやっちろ」です。かっぱがキャラクターになっていて技術的にも大変優れており、小林隆生さんという市職員がボランタリーにつくったものです。小林さんは、八代市のホームページの利用度が低く、どうすれば市民に利用されるか考えた末、当時流行し始めていたSNSの機能を導入しようと思いつきました。そのときに一番大事にしたのは、「市民の居場所づくり」です。必要な情報を取ったらすぐ離れるサイトではなくて、そこに長い時間居続けてもらえるようなサイトにすれば、市が提供する緊急情報なども届きやすくなります。ごろっとやっちろはその後も順調に成長を遂げ、現在では約3000人の会員がいます。

兵庫県には「ひょこむ」という地域SNSがあります。これは、こたつねこ(和崎宏)さんという方がつくって、今は兵庫県に出向されている総務省の牧慎太郎さんが協力しています。牧さんは総務省で先のごろっとやっちろを取り上げて実証実験を行い、全国の自治体に水平展開した実績をお持ちの方です。こたつねこさんも牧さんも人的ネットワークが大変広い方で、それを最大限に生かした形で会員は3200人程度、アクティブユーザー率が高いことが特徴です。

そして、もう一つ紹介したいのが、パリの「ププラード」です。この地域SNS規模は世界最大だと思われます。開設したのはパリ17区に住んでいたノーザン・ストールです。彼は、ウェブ検索で探しあてた近所住まいの2、3人にメールを出し、その中で返事がきた1人と実際にカフェで会って話しをしたのがププラードの始まりです。注目すべきは、住んでいた「通り」に焦点をあて、近所づきあいのコミュニティーを作ったことです。そしてププラードは、空間的に人と人との出会いを作り、フェース・ツー・フェースの近所づきあいをすることが主たる目的となっていきます。その後、近くの商店街にチラシを置いたりしながら、会員数と対象エリアをどんどん拡大していきます。2004年にはユーザー数5000人になりました。2006年にはパリ市長の目にとまり、市長の個人的な支援などもあってユーザー数が4万人になりました。今は9万人から10万人になっています。

このようにププラードは大変ユニークですが、日本の地域SNSと比べた場合、搭載された機能に変わりはなく、むしろ日本の方が優れているところもあります。しかし、ププラードユーザーは10万人に達しようというのに、日本のSNSは、最大といわれる福岡のVARRY(ベイリー)でも6000人程度、その他の大型の地域SNSはどれも3000人台止まりです。このように同じ道具であるにもかかわらず、規模の差が桁違いにみられるのは大変不思議です。

この原因は定かではありませんが、ひとつの仮説として、日本人とフランス人の規範意識の差が挙げられます。大都会のパリにはさまざまな地方から人が流入しますが、彼らには共通して互酬的な規範意識のようなものが備わっているといわれます。互酬的な規範意識といっても「お互い町で会ったらあいさつする」といった常識的なものですが、こうした意識共有の土壌は、地域にとって一つの社会資本といえます。このような土壌を持つ地域と持たない地域とでは、同じ地域SNSという人を集める道具を入れても結果に大きく差が生まれることは容易に想像できます。そう考えると日本の地域は、すでにこうした社会資本を失っていて、日本では地域SNSに3000人しか集まらないといえそうです。これは、現在の日本の地域を考える上で大変重要な視点だと思います。

地域には、「境界」があって「中心」があります。日本のほとんどの地方都市では「中心」にあった商店街がシャッター通り化して、中核的な市街地というものが骨抜きになってしまいました。大都市では延々と市街地が続き「境界」はありません。地方でも、市町村合併によって大切にしてきた地域の境界が失われました。

こうした現象は「ファスト風土化」といわれています。これを提唱した三浦展さんは「のどかな地方は幻想でしかない。地方は今や固有の地域性が消滅し大型ショッピングセンター、ファミレス、コンビニ、パチンコ店などが立ち並ぶ全国一律の大衆消費社会だ。ファスト風土化が昔からの町並みやコミュニティを崩壊させ、人々の生活、家族のあり方、人間関係のあり方もことごとく変質させた。ひいては人々の心も変容させた」と言っています。

このように地域は全国均一になってしまいました。確かに沖縄に行っても、九州に行っても、東北に行っても、東京にいても同じような郊外が広がっています。郊外の写真だけ見てもどこの地域なのか判別できないでしょう。

ファスト風土化と同じ意味で「16号線的郊外」、あるいは「ジャスコ的」といった言葉が使われますが、面白いのは六本木ヒルズも「ちょっと綺麗(きれい)なジャスコ」といわれていることです。六本木ヒルズに訪問された方は分かると思いますが、確かに地方のジャスコより小綺麗で、置いてある商品も若干違いますが、雰囲気は大変似ています。消費の先進地といわれてきた六本木や渋谷ですが、実は北海道や山形などどんな地域とも変わらない。このように日本全土が同質化してしまったといってよいでしょう。

またこれは、地域を支えてきた「市民」や「住民」が、「消費者」になったという言い方もできると思います。消費者の求める欲求や欲望はすべてジャスコにあるわけです。消費者は賢い選択をしているつもりが、結果として品ぞろえが良くて、安くて、品質が保証され、朝から晩までやっているジャスコに皆が一様に集まってしまうわけです。こうした状況が地域を巡る変化のひとつです。

「ウェブが創る新しい郷土~地域情報化のすすめ~」(3)

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丸田 一(まるた・はじめ)
UFJ総合研究所主席研究員、国際大GLOCOM教授副所長などを務め、一昨年から評論家活動を展開。『ウェブが創る新しい郷土』などの著書がある。
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