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地域情報化の未来像を探る 地域情報化フォーラム

ウェブが創る新しい郷土~地域情報化のすすめ~(3)

評論家・丸田一氏
講演する丸田氏の写真

次に「地域経済」をみてみたいと思います。昔は地域経済圏が明確でした。江戸時代には、藩単位に藩札が発行されていて、ちゃんとした地域経済圏がありました。今では、東京にある大企業本社に地方のお金がほとんど還元することに象徴されるように、東京を中心とした単一の経済圏になってしまいました。

大企業の場合、地方で雇用した費用、建物維持費、地方税など、それ以外の所得は全部本社に戻り、本社で広告宣伝費とか本社ビルをはじめとした不動産、料亭などの高級飲食、役員報酬などが支払われます。これが、本社のある東京の第三次産業を潤し、そのおこぼれが札幌、仙台、広島、福岡など地方中枢都市などにある支店に降りてくるという構造になっています。

なお、これは矢田俊文さんという九州大学の先生が中心になって研究された地域経済研究の成果ですが、北九州の大工場で作られた価値が回り回ってお隣の福岡を潤すという構造を示して、九州経済の盛衰を見事に説明しています。

さて次に、こうした東京収奪の構造によって、東京に集まり過ぎたお金をどうやって地方に戻していくかが課題となります。財政再配分といいまして、政府が国庫支出金や地方交付税によって地方自治体にお金を戻しているわけですが、これまでそれらの使途のほとんどは公共工事でした。ただ最近では公共工事に対するバッシングが強まって、それも減っています。

それに代わり台頭してきたのが地方自治体などの情報システムですが、それはもっとひどい状況を生んでいます。地方自治体の大規模な情報システム開発はほとんど全て在京のシステム会社が受注しています。公共工事であれば地元雇用が発生して地域にお金が落ちましたが、情報システム開発費はいったん地方自治体に下りるものの、在京システム会社が受注したとたん、お金はそっくり東京に戻ってしまい、地域にはほとんど落ちません。

このような東京に貫流する仕組みは、ジャスコで買い物しても同じです。本来であれば地域の中で2周や3周と域内で循環すべきお金ですが、ジャスコで買い物したり、東京の情報システム会社に発注してしまうことで、その機会を自分たちで奪っているということなのです。ただ、最近少し仕組みが変わって、ようやく在京システム会社と地場企業とがコラボレーションするように変化しつつあります。

さらに「地域格差」をみてみたいと思います。格差社会という言葉がブームになっていて、新聞に格差という言葉をみない日はないぐらいです。それほど多くの人が格差に関心を持ち、格差という眼鏡で世の中をみようとしているわけです。さて、「ジニ係数」という格差を表す指標があります。ゼロであれば格差がなく平等、1に近づけば近づくほど格差が大きいという指標です。国民一人ひとりの所得データを用いたジニ係数をみると、ずっと数値が減って90年代半ばで底を打っています。ですから、戦後一貫して平等になり続けていたのですが、90年代以降は不平等化に転じています。一方、今度は「地域間格差」をみると底を打つことなく一貫してジニ係数は減少しています。ここからは、東京と地方の格差が広がっているという見方は間違いといえるでしょう。

また、都道府県間の格差にはあまり大きな変化はありませんが、市町村間の格差をみると、ここ2、3年の間に急激にジニ係数が上がっています。このことは、東京と山形の比較では、あまり差は表れないものの、県内の市町村単位でみると、そこには大きな格差が表れるということを意味しています。東京や近畿でも超高所得者層が集まる地域と周辺地域というピンポイントの格差が拡大していると言われ始めています。ただ、総じて地域間格差は少ないという見方が正しいといえるでしょう。

次に「地方分権」をみてみましょう。国のかたちを変える地方分権は、地方活性化のためにも大きな期待が寄せられています。この地方分権の中で、「地域主権」という住民が主権者となって下から積み上げていくという考え方があります。そして、これを裏付けるのが「補完性の原理」というキリスト教に由来するユニークな考え方です。補完性の原理は、まず個人でやってみて、個人でできないことは家族で賄い、家族でできなければ近所の人にお願いし、近所でもできないものを初めて公的機関にお願いしよう、公的機関の中でもまず身近な市が行い、市でできないものは県に、県でできないものは国に、国にできないものはさらに上に委ねるという考え方です。

例えばEUでは、補完性の原理をEU憲章の中に組み込んでいます。しかし、現在の日本では、補完性の原理を適用するのに問題がみられます。というのも個人や家族と、地方自治体との間に大きな断層があるからです。補完性の原理は個人が市民意識を持たない限りできないことです。しかし、先ほども申し上げたように、日本の住民は、市民になりきれず、むしろ消費者に成り下がっています。消費者に市民的な責務を果たしてくれといっても無理な話です。そうした意味で、地域主権という運動は定着しにくく、地域を本来的に元気にしないだろうと思います。

ここまで日本の地域の現状をみてきましたが、大変悲観的な気持ちになります。しかし、私はこうした厳しい現状認識の中から地に足をつけて地域再生を考えていくべきだと思っています。そのときに忘れてならないのは、「情報化」が進んでいるという事実です。私が申し上げてきた地域の現状認識は、表層の見立てです。本質的な社会変化が底で起こっており、そこに注目していかなくてはなりません。

そこで、少し大それた言い方になりますが「人間活動の場」についてお話しをさせていただきます。インターネットが商用化される前まで人間の活動の場は「現実空間」しかなかったわけです。ところが今「Web空間」という別の場が生まれ、我われはこの2つの場を使い分けるようになっています。Web空間は、ブログのように意図して情報発信したものや、監視カメラのように意図せず撮られてしまうものなど、さまざまな形で現実空間の情報がアップロードされることで生まれ、拡大しています。

このようにWeb空間は情報の空間ですが、現実空間と同じ行動が可能です。商業はこれを端的に表しています。70年代にダイエーが地方都市の中心部に進出して地域商業を変えていきました。それ以来、政治を巻き込んで地元の商店街と大型店の戦いが繰り広げられてきました。80年代には大型店と地場商店街とが同じ売上げ規模になり、近年では2006年にまちづくり3法の見直しが行われて地元商店街が勝った格好になっています。しかし、「eコマース」というWeb空間上の商業の場ができて、現在では、地元の商店街、大型店、eコマースの売上高がちょうど1:1:1になっています。大型店と地元商店街はずっと戦ってきたのですが、新しく生まれたWeb空間は無視できない存在になっています。

「ウェブが創る新しい郷土~地域情報化のすすめ~」(4)

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丸田 一(まるた・はじめ)
UFJ総合研究所主席研究員、国際大GLOCOM教授副所長などを務め、一昨年から評論家活動を展開。『ウェブが創る新しい郷土』などの著書がある。
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