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藤沢周平書籍作品あれこれ

秘太刀馬の骨(ひだちうまのほね)(1)

「桜の馬場」と呼ばれる三ノ丸東南隅の馬場=旧藩校・致道館の塀が続く馬場町かいわい

「秘太刀馬の骨」は平成2(1990)年から4年にかけて「オール讀物」に連載された長編小説である。「蝉しぐれ」をはじめとする多くの傑作を出し、時代小説家としての地位を揺ぎ無いものとした後の、作者円熟期の作品で、おなじみの庄内の食物はもちろん、庄内弁も出てきて、故郷色も一段と濃い作品である。

主人公の浅沼半十郎は30代半ば。近習頭取(きんじゅとうどり)という役で130石の禄(ろく)である。藩の実力者小出帯刀家老に取り立てられ、今は小出派に属しているが、人柄が温厚篤実なことから反対派の人々にも信頼される男である。主人公というよりは、この小説の中では狂言回しのような役割を担っている人物である。本当の主人公は「秘太刀馬の骨」を遣う人物である。しかし、その人物が誰なのかは、最後まで読まないとわからないのである。

浅沼半十郎は小出家老に命じられて、この秘太刀の遣い手を探すことになる。「馬の骨」と名付けられたこの秘剣は、矢野惣蔵という不伝流の名手が編み出したもので、その子供の仁八郎には伝えられたが、孫の藤蔵は父の仁八郎から伝授されていないという。この矢野家は御馬乗り役で50石ほどの下級藩士の家だが、代々不伝流の剣術を継ぎ、道場も構えていて、仁八郎亡き後、藤蔵が当主として稽古をつけたりしている。

お城の三ノ丸の東南隅に「桜の馬場」と呼ばれる広大な馬場がある。先々代の藩主が馬遊びをしていた時、1頭の病馬が突然暴走した。何人かを蹴散らしたり、かみついたりした揚げ句、藩主に襲いかかろうとしたそのとき、矢野惣蔵が一刀の下に暴れ馬の首の骨を断った。その秘剣が「馬の骨」と名付けられたのだという。藤蔵ではないとすると、いったい誰が仁八郎から伝授されたのか。浅沼半十郎はさまざまな事件にかかわりあいながら、ついにその秘剣が遣われる瞬間を目撃するのである。そこに至るまでの過程が一種の推理小説のような仕立てになっている。犯人探しならぬ剣士探しのスリルも味わわせてくれる。

「秘太刀馬の骨(2)」へつづく

(筆者・松田静子/鶴岡藤沢周平文学愛好会顧問)
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