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藤沢周平書籍作品あれこれ

町屋のにぎわい(2)

「町屋のにぎわい(1)」 からのつづき

飲食店などが並ぶ旧七日町通りから裏通りに入ると、観音堂など落ち着いたたたずまいが顔をのぞかせる

『又蔵の火』は荘内藩の史実に基づいた作品なので、実名の町が登場する。そこには放蕩する兄を父の命令で迎えにゆく場面があるが、その兄万次郎の行き先というのが七日町の花屋である。七日町はこんなふうに描かれている。

「七日町に十七軒の旅籠屋があって、それぞれ遊女を置いていただけでなく、裏町に隠遊女屋がひそかに繁昌している」

鍛冶町の木戸の手前を右に下ってゆくと長い坂があり、田川街道や温海街道から来た旅人たちは、その坂を下って七日町で草鞋(わらじ)を脱ぎ一夜を過ごしたのだろう。旅人は金峰街道からもやってくる。七日町あたりの人のにぎわいが想像されよう。

また、『又蔵の火』と前後して発表された『暗殺の年輪』は直木賞を受賞した作品で、ここに初めて「海坂藩」の名が登場するが、この作品はその後の海坂藩ものの原型をなしている。この『暗殺の年輪』にも七日町あたりを思わせる描写がある。

「足軽町を通り過ぎると、そこから道筋は町屋で、左右に商家がならび、赤提灯を下げた居酒屋が交ったりして、人が混んでいる。」

この足軽町は、長い坂の途中にあって、その坂を下りきったところに居酒屋や遊女屋がひしめいている。その居酒屋のひとつに、主人公・葛西馨之介(かさいけいのすけ)の元下僕と娘のお葉(よう)の働く店がある。馨之介が武士を捨てて逃げゆく先にお葉の姿がある、という設定である。武家と町人の世界がこの後の藤沢文学の展開を暗示していて興味深い。

このようににぎわいを見せていた旧七日町は今でも夜には赤や青のネオンのともしびが市民を誘う繁華街であって、海坂藩の町屋の面影を残している。

(筆者・松田静子/鶴岡藤沢周平文学愛好会顧問)
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