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藤沢周平書籍作品あれこれ

川と橋のある風景(2)-万年橋付近-

「川と橋のある風景(1)」 からのつづき

鶴岡市内をゆっくりと流れる青龍寺川

『小川の辺(ほとり)』という短編にも、青龍寺川のイメージの川が登場する。幼い子供たちが川遊びをする場面が次のように描かれている。

「湿地の葦(よし)の間には、夏になると葦切(よしきり)が巣を懸けて卵を生んだし、川は砂州(さす)が多く、流れも浅いところは子供の踝(くるぶし)までしかない。(中略)家中の家家では、子供たちが裏の川へ行くことを禁じていたが、子供たちはこっそり外に忍び出て川に走った。」

夏の間、川水の浅い青龍寺川で泳いだり、魚を手取りしたり、葦切りの卵を失敬したりする子供たち-侍の子も村の子も同じ遊びに夢中である。

この『小川の辺』には、江戸の近くの行徳あたりの小川も出てくる。脱藩した妹夫婦を追いかけてきた兄が、この小川の辺で討手として対面する、という悲劇なのであるが、この兄妹の幼い頃の想い出がその悲惨さを幾分やわらげている。藤沢さんは市井ものの多くの舞台を江戸の深川に求めた。深川にも、小名木川に架かる「万年橋」という橋がある。市井ものにこの橋は幾度も登場し、大川の水のきらめきや、橋を渡る人の足音などが情緒深く描かれている。川と橋には、特別な思いが藤沢さんにあったことがわかる。

(筆者・松田静子/鶴岡藤沢周平文学愛好会顧問)
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