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藤沢周平書籍作品あれこれ

藤沢周平の作品における風景

1 女たちのいる風景

◇わがままな女1

「働く女」や「耐える女」が多く描かれる一方で、いやな女、わがままな女も多く登場する。やや類型的な感じがするこの種の女は、まず第一に口やかましい。そして自惚れが強く、権高である。またケチくさく、使用人をこき使う。当然冷たい。男の仕事に口を挟み、男の価値を地位や稼ぎで判断する。苦笑させられるほど、こうした女は老若に関係なく、リアルに迫ってくる。思わず身近に感じられるくらいに、生き生きと迫ってくる。こちらの「わがままな女」に対しても氏の筆鋒は鋭い。

例えば『唆(そそのか)す』という短編小説に登場する「竜乃」という女がそれである。

竜乃は細面で眼が細く鼻の形もよい。口が少し大きめだが武太夫と六ツ違いの三十二という体は相応の捻りを示し、醜くはない。だが国元にいた時は、日頃こまごまと文句を言い、活発に動いた口が、むっつりと引き締められ、視線をかわすのもなるべく避けようとしているのをみると、武太夫は時折りうっとうしい気分になる。

この「意固地な女」竜乃は夫が仕事上のミスで藩を追放されたのを恨みに思い、離縁の申し出も拒み、江戸まで夫について来たのは、夫がもっと大きい藩に仕官するのを期待したからである。夫を「叱咤激励して仕官の途を求めさせようと躍起になる」女であり「世間体を気にする口喧しいたちの」女である。その夫に仕官する意思が全くないことを覚るや、口もきかないようになり、陰にこもるのである。心の通い合わなくなった夫婦の寒々とした日常が、夫や妻の表情を通して、手にとるように見えてくる。

また、「働く女」の例で紹介した『なくな、けい』にも、わがままで夫をないがしろにする女が出てくる。「けい」にとっては女主人にあたる「麻乃」という女である。家つき娘で、聟をとるのだが、家柄の低い夫を馬鹿にして「権高な物言い」をし、おまけに癇癪持ちであり、終始ガミガミと小言を言う女である。「わがまま」で、病弱で、良い処がない。女中の「けい」をいつも叱りつけている。ある時は癇癪を起こして、鞭で折檻しようとするような荒々しい女である。「色が白く美貌の女だが、家つきの娘にありがちな権高なところがある。窮屈な女である。」と、作者も容赦なく、こうした女を突き放す。作品の中からそのつもりで探してゆくと、冷たい、わがままな女は初期の作品から、最新の作品まで結構登場している。『一顆の瓜』という、初期の作品にも、似たような悪妻が出てくる。その女に対する感想を主人公である夫の口を借りてこう言わせている。

女は男の甲斐性というものを金銭で計ろうとする。そしてだ。ついに男の真の値打ちというものを覚ることができん。あわれな連中なのだ。

「わがままな女2」へ続く 

(筆者・松田静子/鶴岡藤沢周平文学愛好会顧問)
海坂かわら版
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