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藤沢周平書籍作品あれこれ

藤沢周平を語る

作品の魅力(上)

作品について少し触れたいと思います。作品を分類しますと、ひとつは市井ものといって江戸の下町、大川~隅田川ですね。その周辺に住んでいる庶民、職業をあげると職人、大工さんとか錺(かざ)り物造り職人とか、或いは博打打ちの男とか、女の人では女郎さんとか或いは茶店で働く女とか、裏長屋に住んでいるような庶民の生活の哀歓を描いた作品があります。長いものもありますが、この市井ものは短編が多いですね。そういう作品を沢山書いています。この市井ものを書く時、藤沢さんはいつも江戸時代に作られた江戸の切り絵図というものを広げて虫眼鏡でこうやって見ながら、今日この主人公はどこを歩いたか、どの位歩いたかというのを綿密に調べて書いているんですね。ですから切り絵図を見ますと、ちゃんと歩いた場所が分かるんです。主人公がここで船を下りて、それから用水路の脇を通って、そして石切場に行って、そこで誰に会って、こう曲がってという道筋を地図で見ますとちゃんと分かるんです。多分、藤沢さんは江戸の町を自分の頭の中で再現させながら主人公を歩かせたりするのがとっても楽しみだったんじゃないかと思います。

一度『海鳴り』という小説の中で主人公と不倫の相手といいましょうか、女性とが暗い方暗い方に人目の付かない所を選んで歩いていたのをずっと地図で迫ってみたら、なるほど、ここは人目に付かない所だなあということが分かりました。あっ、人が来たと言ってさっと離れて、又暗い所に行って2人でくっつきながら歩いたんだろうと想像できるんです。もし皆さんの図書館に切り絵図があったら、是非『海鳴り』の作品などでちょっと突き合わせてみて下さい。ちゃんと地名が分かります。例えば、親父橋といった橋が出てくる。変な名前だなあと思ったら、ちゃんと地図に残っている。親と父と書いて。照降り町という地名もありますし、有名な大川端も地名が残っている。皆さんご存知かと思いますが、日本橋の通り一丁目、通り二丁目、通り三丁目とあったり、神田のなんとか町、なんとか町、伝馬町とあったり沢山地名が出てくるんですね。切り絵図を見ながら読むのも、ひとつの楽しみですね。どの小説も、市井ものでしたら地図に従って書いているんですね。

「藤沢周平を語る5 作品の魅力(中)」へ続く 

(山形県高等学校司書研修会講演より)

(筆者・松田静子/鶴岡藤沢周平文学愛好会顧問)
海坂かわら版
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