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地域情報化セミナー「地方に求められる情報産業企業」

「最新の地域情報化状況と地方における情報産業企業の必要性」(2)

GLOCOM助教・研究員 庄司昌彦氏
講演する庄司氏の写真

地域や組織の実情に合わせてつなぎ方を考えなくてはならないということですが、例えば、都市と地方では必要になる「つなぎ方」がずいぶん違います。私は東京でマンションに住んでいますが、右隣りの人は知っているけれども左隣りは表札も出していないし、会ったことがないのでどんな人なのか全く分かりません。そういったところでは「結束」が大事になります。一つ屋根の下に暮らしているもの同士でつながりをつくっていこうよ、ということです。しかし、このようなつながりは、地方ではすでにあるものでしょうから、地方の場合には外から「よそ者」とか「ハブ」という人たちとつながりを作っていく、橋渡しの方が重点になると思います。

ちょっと話がわき道にそれますが、今後、都市と地方の人口格差がますます広がっていくということはとても重要なことだと私は考えています。国立社会保障・人口問題研究所によると2005年の人口を100とした場合、山形県は2020年に90、2025年には85になってしまうと予測されています。その一方で、東京は人口が増えていきます。つまり、東京への人口集中の傾向は続き、地方は少子化で減少するだけでなく、多くの人が流出してしまうということです。現在、東京と周辺都市を合わせた"東京首都圏"は、人口規模では世界最大の都市圏なのですが、2025年でも世界最大の都市であり続けると予測されています。東京とどのようなつながりを持っていくのか、ということが重要になっていくと思います。

次に、情報技術を使って「人をつなぐ」方法として、地域SNSについて説明したいと思います。SNSとはソーシャルネットワーキングサービスの略です。ソーシャルネットワークとは社会的なネットワークと言い換えることができますが、簡単にイメージするために少し例を出したいと思います。1つは『笑っていいとも!』という番組が放送されていますが、その中にテレフォンショッキングというコーナーがあります。ゲストタレントが翌日のゲストを紹介してリレーしていくということをずっと続けています。あの番組を見ていると、確かに人のつながりを意識することができます。また、パーティーなどに行くといろんな人がいて、知らない人と話をしなければならない場面が度々あります。そうしたときにたまたま共通の知り合いがいることが分かって「世界は狭いですね」などと言うことがあります。共通の友人を介して、お互いがつながったわけですが、すると親近感や信頼感が増してきて、どういう話題をするべきかも分かってきます。そういったときに感じる人のつながりがソーシャルネットワークです。したがってSNSは情報技術を使って人のつながりを表現したサービスとお考えください。

SNSの特徴は、人をつなぐことが第一点です。つながりを可視化したり、新しくつながりをつくったりする機能を持っています。基本的には会員制のサイトで、各自が自分のページを持ち、自分の知り合いや友人などのページとリンクをします。すると相手の日記の更新情報などが、自分のページにどんどん入ってくるわけです。また、友達同士のつながりだけではなく、日本酒が好き、お寺が好き、など特定のテーマに興味を持つ人のコミュニティをつくることができます。

こうした機能によって「知っている人との安心な交流」ができます。各自が自分は何者であるのかということを明らかにしますので、匿名性が低いわけです。よく言われる「2ちゃんねる」などの匿名掲示板は、コメントを書いているのが誰なのか分からず、情報の信憑性もよく分かりませんが、SNSはコメントを書いている人が誰なのか、ある程度分かった上でコミュニケーションをする場所だといえます。情報の発信者が分かれば、その情報の信憑性なども分かるわけです。

もちろんいい面ばかりではなく、SNSにも心配な悪い面はあります。私はある実践女子大で1年生向けに授業をしていますが、例えばそのような学生が自分のブログに「上京してきて○○駅の○○近くのアパートに住みました」などと書いたとします。それは必ずしも悪いこととは言い切れませんが、不用意でいると、いろいろな人が寄ってくることもあるわけです。中には悪い人もいるかもしれません。大学生ならまだ大丈夫かもしれませんが、幼い子供がこうしたサービスを使って、住所や年齢などを明かしてしまうと、確かに危険なこともあり得るでしょう。また、公開されている個人情報を悪用する人がいたり、他人になりすます人がいたりすることもあり得ます。プライベートな情報をうっかり広範囲の人に公開して問題になることもあり得ます。大学生でありそうな話としては、授業をサボって遊びに行ったことを友達だけに見せるつもりで日記に書いたら、より広範囲の人たちにばれてしまってやり玉に挙げられてしまうなどといったことです。授業をサボるくらいならいいかもしれませんが、社会的に非難されるような行動だとたくさんのコメントが集まって「炎上」という状態になることがあります。それでも、匿名で参加するような場所と比べれば、かなり居心地のいいコミュニティだと私は思っています。

このようなSNSが、日本でも世界でも非常に人気を集めています。日本では最大手のミクシィが約1300万人、携帯電話用のSNSのモバゲータウンは500万人の登録者を集めています。世界を見ると1億人、数千万人規模の登録者がいるサイトがいくつもあります。

こうしたSNSを地域で使おうという取り組みが2004年12月に国内で初めて立ち上がりました。熊本市の八代市の「ごろっとやっちろ」というSNSです。市役所の職員である小林隆生さんが思いつき、地図機能や市内の火災情報をユーザーの携帯電話にメールで通知する機能など、地域ならではの機能を盛り込んだSNSを自分で開発していましました。小林さんは、八代市のホームページに市の情報を掲載して市民に見に来てもらうよりも、市民が普段から見ているページに情報を掲載した方が多くの人に届くのではないかと考え、地域SNSを作った、と語っています。この八代市のSNSは好評を得まして、参加者も増え、活発なコミュニケーションが行われるようになりました。

これに注目したのが総務省です。総務省は八代市からプログラムの提供を受け、2005年12月から2006年2月まで自治体での活用について実証実験を行いました。住民同士の交流や助け合い、行政への住民参画、災害時の連絡手段などについての検討が行われ、実験を行った新潟県長岡市と東京都千代田区では、地域で起きた事件の情報がマスメディアより先に住民に伝達できた事例などが報告されています。このころから地域SNSは全国に広がり始めまして、2008年2月現在では、350カ所以上の地域SNSが存在しているようです。

もちろん全てが活発に活動し成功しているわけではありません。しかし、小さな成功例が各地で出てきています。そこで、地域SNS関係者が集まって情報交換をしていこうという動きが2007年から始まりました。それが「地域SNS全国フォーラム」です。第1回は2007年8月に兵庫県で、第2回は2008年2月に横浜市で開かれました。全国から非常にたくさんの人が集まりまして、地域SNSを運営する上での工夫や悩みなどについて、活発な情報交換が行われました。

>> 「最新の地域情報化状況と地方における情報産業企業の必要性」(3)

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庄司 昌彦 (しょうじ・まさひこ)
国際大グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)助教・研究員。専門は情報社会学、政策過程論、地域情報化、ネットコミュニティなど。
>> 国際大グローバル・コミュニケーション・センター
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