私は地域研究や地域情報化研究を長い間続けてきましたが、最近は研究対象としての「地域」そのものが見えにくくなっています。研究は対象を決めて取り組むものですが、対象である地域の実体が希薄になり、一体何を研究しているのか分からない状況です。
まず、紹介したいのは「地域SNS」です。SNSは「ソーシャル・ネットワーキング・サービス(Social Networking Service)」の頭文字をとったもので、人と人とのつながりや絆を広げる場をウェブ上に提供するものです。参加者が自由に人間関係を築いていくという新しいタイプのウェブサービスです。
「ブログ」が登場したのは2003年です。それまでウェブ上の情報発信の主流は、HTMLという少し難しい言語で書かれたホームページでしたが、ブログは難しい言語を扱うというわずらわしさのない便利な道具として登場し、一世を風靡(ふうび)しました。しかし現在、ブログの機能はSNSの中に吸収されています。SNSは大変多くの機能を持っており、そのうち発信にかかわる一部の機能を集めるとブログになる、という理解が今では一般的です。
SNSは2004年に世界一斉に登場し、急速に普及していきました。しかし、2006年になると様子が変わり、2つのタイプのSNSに分岐していきます。それまでの流れが「一般型SNS」となり、2006年に登場したのが「特化型SNS」です。「一般型SNS」は今でも大変多くの人を集めています。マイスペースという世界最大のSNSは2億人弱の会員を集めています。また、日本でも国内最大のミクシィが2006年に上場しました。一方、特化型SNSは、個別の目的や限定したグループにSNSを適応するものです。
まず「一般型SNS」をみていきましょう。マイスペースの会員は全世界に2億人、日本最大のミクシィは1200万人。日本では10人に1人がミクシィの会員になっている計算です。会員の中心は20代と30代前半で、この世代は大半が会員になっているのです。ミクシィの会員数がまだ30万人程度だったころ、その時点ではグリーという別のSNSとしのぎを削っていました。ところが、ある時点で両者の会員数に差が生まれ始めて、その後はミクシィだけが急成長していき、一人勝ちとなりました。理由は簡単です。SNSではさまざまなグループが作れるのですが、例えば私が中学校の同窓会を立ち上げる場合に、会員10万人のSNSと、1000万人のSNSでは、後者のほうが、同窓会のメンバーをより多く集める確率が高く、圧倒的に有利だからです。こうして、一つの言語文化圏に1つのSNSが選ばれるようになっていきます。
日本ではミクシィが選ばれました。アメリカではマイスペース、カナダではフェースブック、ブラジルとインドはオーカット、インドネシアはフレンドスター、といった具合です。
SNSが持つコミュニケーションの機能は多彩です。例えばミクシィであれば、最初は既存会員から紹介を受けて、ミクシィネットワークに参加します。このように最初の交流は「1対1」です。もちろん、ネットワークに入った後もさまざまな形の1対1のコミュニケーションの手段を持っています。ただ、SNSの真骨頂はグループづくり、つまり「多対多」の交流にあります。既存のグループに参加することもできれば、自分で新たにグループを立ち上げることもできます。また、ブログのように自分の日記などを「1対多」に一斉同報することもできます。さらに、自分のブログのランキングをチェックするなど「独り」遊びもできます。
このように「1対1」「多対多」「1対多」「独り」など人間活動の中の特にコミュニケーションのさまざまな局面を成立させる実にたくさんの機能をSNSは装備しています。少なくとも60程度の機能がSNSを構成しています。
そして、こうした一般型SNSの経験と実績が、特化型SNSに結び付いています。特化型SNSは、目的や参加者を限定してコミュニケーション活動を適用するものであり、適用対象は家族、地域、企業などさまざまで、それぞれ家族SNS、地域SNS、企業SNSといわれています。
私は家族3人ですが家族SNSを持っています。去年、1カ月だけ単身赴任をすることになり、その時、家族SNSが大変役に立ちました。情報発信するのはもっぱら私で、赴任先のオフィスやマンション周辺などを携帯で撮ってコメントを付けアップロードします。するとうちの奥さんがすぐ見にきてくれます。ただ、子どもは見に来てくれませんでした。それがある日、子どもが初めてみにきたのですが、そのタイミングから母親と良好な関係を維持している様子がうかがえました。というのもSNSには誰がいつ訪れたかを記録する「あしあと機能」が備わっており、たまたま我が家には1台のパソコンしかないので二人の距離感を推測できたからです。このようにSNSはたった3人でも、充実したコミュニケーションが取れます。リアルなコミュニケーションよりも、むしろコミュニケーションの機微に触れることもある優れた道具といえるでしょう。
このSNSという道具を、家族だけではなくて、企業や、地域や自治体などさまざまな社会的主体に応用しようというのが特化型SNSです。2006年は、「特化型SNS元年」といわれていましたが、ちょうど市場規模は10億円程度でした。今年は約120億円の市場規模になると予想されています。
特化型SNSの主戦場は企業であり、多くの企業が企業SNSを採用し始めています。企業SNSの利用形態の一つは「in B」であり、企業内の社内グループウエアとして活用するものです。また、企業間取引の一番中心である「B2B」にも実績が上がっています。これまで縦方向につながっていたメーカー、卸、小売りなどの会社関係を取り払って社員レベルで横の連携をつくり、新しいビジネスチャンスを生んでいます。一方、「B2C」の領域では早くからeコマースが立ち上がっていたこともあり、なかなかSNSの力を発揮できないところでした。しかし最近では、「C2C」という顧客同士の関係、口コミなどといわれるものですが、ここにSNSの使いがいがあることが分かってきています。ただ本日の講演は地域がテーマなので、企業SNSの話はこのくらいにします。
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