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藤沢周平書籍作品あれこれ

町屋のにぎわい(1)

旧七日町通り

「海坂藩」の登場人物はほとんどが武士であるので、武家屋敷やその周辺の描写が中心になるのは当然である。『蝉しぐれ』の主人公・牧文四郎の住む普請組の組屋敷は町の西南のはずれにある。小川が流れていて、目の前には田が広がっている。三屋清左衛門の隠居屋敷は、家中のどかかに位置し、坪庭などのある、相応のお屋敷である。これらの武家屋敷も興味深いが、「海坂藩」でもうひとつ面白いのは町屋の存在である。商人の町・職人の町には、それぞれ名前が付けられ、にぎわいを見せている。

『玄鳥』には、城下にやってくる魚売りのことがこんなふうに出てくる。

「城下には、朝のうちに漁師の女房たちが魚を売りに来る。海辺から二里半の道を、舟から上がったばかりの魚を大いそぎではこんで来るので、女たちが売る魚は新鮮だった。」

上肴町・下肴町はこうした魚売りが集まる町だったという。

『雪明かり』という作品には上肴町を思わせる町が登場する。

「町通りは早く戸を閉め、明るいのはいま菊四郎が歩いている坂下の一角だけである。そこには肴屋(さかなや)や青物屋が塊っていて、店先に軒行灯(のきあんどん)や二百匁もありそうな裸蝋燭(はだかろうそく)をともして、客を呼んでいる」

この町の肴屋(さかなや)で鰯(いわし)を買う、貧しい武家の娘が出てくる場面であるが、ここにも町屋の風景が生き生きと描かれている。この上肴町は長い坂になっていて、その坂下にある町が旧七日町である。

「町屋のにぎわい(2)」へつづく

(筆者・松田静子/鶴岡藤沢周平文学愛好会顧問)
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