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藤沢周平書籍作品あれこれ

水の恵み(1)

庄内の美田が黄金色に輝く秋は稲刈りの季節だ

庄内は水の豊かな地である。全国有数の米どころとなったのもこの水の恵みに依(よ)るところが大きい。勿論(もちろん)、稲の改良を重ねてきた人たちの功績も忘れられない。

羽前水沢駅あたりから開ける平野が一面、黄金波打つ美田という光景は庄内の誇りであろう。この美田を潤す水の多くは灌漑(かんがい)用水から引かれている。とりわけ赤川からは10を超える大小の堰(せき)が掘られ、東西を縦横に走っている。赤川の水は月山・朝日山系のブナの森の養分をたっぷり含み、冷害などに強い稲を育てるという。これらの堰は戦国時代から江戸時代の間に作られたもので、先人たちの汗と血の結晶である。

藤沢さんの作品にも、新地開墾を志し、そのための堰づくりに命を賭(か)けた人々が登場する。例えば『暗殺剣虎の眼』にはこんなふうに出てくる。

「海坂藩では五年前に冷害に襲われ、領内の作柄四分という凶作に見舞われた。その年は備荒籾を放出してどうにか領民が飢えるのは切り抜けたが、そのあとの藩財政はにわかに窮屈になった」

この状況を打開しようと執政たちが論争する。その策のひとつが大規模な開墾開田策である。しかし開墾には長い歳月を要し、人手も金もかかる。その間領民を締め付ければ、つぶれ百姓が他出する、と郡代(農政担当)が主張する。実際、政治の失敗の犠牲になるのは百姓であり、単なる権力争いの道具に開墾事業をやらされることもあった。

「水の恵み(2)」へつづく

(筆者・松田静子/鶴岡藤沢周平文学愛好会顧問)
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