文字サイズ変更



  • プリント用表示
  • 通常画面表示

藤沢周平書籍作品あれこれ

藤沢周平の作品における風景

1 女たちのいる風景

◇はじめに

藤沢周平氏は昭和2年、鶴岡市高坂に生まれた。昭和48年に『暗殺の年輪』で直木賞を受賞。小説の面白さを心ゆくまで味わわせてくれる「職人芸」的うまさで定評があり、熱心なファンが多い。菅原孝標女(たかすえのむすめ)は「更級日記」で、物語を読むときの楽しさを「后の位も何にかはせむ」(后の位も比べものにならないくらいだ)と述べているが、物語を読む醍醐味を言い得ている。現代では、小説にとって一番の基本である「読む楽しさ」を失っているような作品が多いと思われるのであるが、藤沢文学はその点、読者を裏切らない。しかも何度読み返しても、新しい感動を与えてくれる。

作品の多くは江戸時代が背景であり、武士、町民、農民、浪人、僧侶、山伏、漁師とさまざまな階層の人間が登場する。実に多彩であるが、主人公は、金や権力を持たない「弱き者」であり、裏長屋でその日を精一杯暮らす人間であり、はぐれ者や部屋住みの者である。だから、江戸の町も、深川周辺の下町が中心に描かれ、読者は、大川に架かる橋の上を行き交う下駄の音を聴き、裏長屋の生活の匂いを嗅ぎ、薄暗くて空気が淀んでいる賭場の、殺気だった男の荒い息を感じたりすることが出来る、どの作品からも人間の姿が生き生きと伝わってくるからであろう。

また、藤沢作品には独特の情感が漂っている。情景によせ、人物にせよ、情緒豊かな味わいが感じ取られ、ぬくもりが感じ取られる。その情感はどこからくるのか。先ず第一に「女」の描き方を取り上げ、作品に与える彩(いろどり)や潤いをとらえてみようと思う。

「働く女」へ続く 

(筆者・松田静子/鶴岡藤沢周平文学愛好会顧問)
海坂かわら版
トップページへ前のページへもどる
ページの先頭へ

Loading news. please wait...

株式会社 荘内日報社   本社:〒997-0035 山形県鶴岡市馬場町8-29  (私書箱専用〒997-8691) TEL 0235-22-1480
System construction by S-Field