藤沢周平氏のエッセイ集『小説の周辺』には、故郷の思い出が数多く語られている。「霧の羽黒山」「町角の本屋さん」「村の遊び」等々の中で、子供のころに遊んだ川(青龍寺川)や丘(金峰山の麓)のことなどをはじめ、村の人々の暮らしなどに触れている。その懐かしさに満ちあふれた文章は、読むこちらの心まで和ませてくれる。特に「緑の大地」には氏の故郷への思いが、そのまま吐き出されている。そんな懐かしい故郷の風景が、小説の中にさまざまな主人公の眼を通して描かれているのである。実名で登場する鶴岡の風景描写を中心に取り上げたが、いずれ架空の「海坂」の国の風景も取り上げて、そのイメージの重なりをとらえてみたいと思う。どのような場面においても作者の中には、その青春時代まで暮らした故郷の風景が原型となっていることに変わりないだろう。