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地域情報化セミナー「地方に求められる情報産業企業」

「企業と智業の共働が支える地域」(4)

多摩大学情報社会学研究所所長・公文俊平氏
講演する公文氏の写真

私たちは“グローバルに行動する”とは言っても、生きているのは地域の中ですから、さしあたっては、地域での生活を支援していくためのプラットホームが地域になくてはいけません。地域で智業・智民としての活動を営むことが、これからの主流になるかもしれませんが、地域SNSなどの場合、そうした支援の仕組みをしっかりもっていることが大切になります。

いろいろな形の地域通貨システムとか、自治体のサービスを支援したり、地元での流通や住民の収入などを支援する仕組みも、今後は地域SNSの中にさまざまな形で組み込まれていくでしょう。教育、医療、安全サービスについても、SNSの枠組みの中に組み込んでいくのが望ましいでしょう。

さらに、観光にやってきた人々を支援するための仕組み。最近、「ふるさとケータイ」というのが話題になっています。たとえば鶴岡に来ると携帯電話が鳴って鶴岡のことをいろいろ教えてくれるとか、どこでどんなサービスが受けられるかなどを知らせることが可能になりつつあります。そういった地域SNSの運用を支援するための企業の存在が、地域にとって非常に重要になってきますが、それにはどんなビジネスモデルを考えればいいのでしょうか。

企業が慈善のために支援するというわけにもいきませんから、支援をしたらそのコストを賄えるような仕組みができなければなりません。国は、国民の安全を保障するといっても、タダではできないので、税金でコストを賄っています。同じような意味で、企業はどうすれば地域ネットワークを運用するサービスを支えるための費用を賄うことができるか、が思案のしどころです。これまでのところ、唯一実現可能なのは広告モデルだということになっていますが、それ以外にもないのかということが重要な研究課題になります。

ここで、情報化にあたっての庄内地域にとっての課題と思われるものをいくつか挙げてみましょう。一つは、大変抽象的な言い方になりますが、やはりまだ地域情報化、情報革命という点で見ると日本は〝西高東低〟の印象がぬぐい難いのです。特に東北地方が相対的に活動がまばらになっています。この西高東低状況に甘んじるわけにはいかないので、これを打破するための挑戦をしていくべきです。

地域の中の少数の活動家(アクティビスト)たちが頑張って成功するとすれば、それはそれで素晴らしいことですが、地域に住んでいる圧倒的多数の人々が活動家に比べて意識が遅れているというようなことは必ずしもありません。

場合によっては、そうした多数の人々の方が、情報社会への適応という意味ではより進んでいるのかもしれません。ですから智民大衆とか智民群衆と呼ばれる人たちと智民アクティビストとが、どのように連携するかを考えてみなければならないのです。そうした連携の例を作ることができれば、全国的な発信価値を持つ非常に面白い試みになるでしょう。

ところで、智民群衆はいったい何を考え、どんな行動をしている人たちなのでしょう。東浩紀さんは以前、彼らは「動物化している」といいました。つまり、食べるとか寝るとかいった動物的な「欲求」はあるけれども、これまでの近代人が持っていた金持ちになりたいとか、人の上に立ちたいなどといった焼けつくような「欲望」はもう持たなくなった。そこそこ楽しければいいというわけです。だから、「貧乏な家のこどもでもがんばって働けば大企業の経営者にもなれる」といったたぐいの人々の心に訴えるような「大きな物語」はもうなくなった。「近代」は終わったのだと東さんは主張しました。

確かにそういう傾向はあったけれども、決してそればかりではないようです。最近、ケータイ小説というのが特に地方の若者の間で人気を集めているそうですが、その中のいくつかは本としても出版され、ベストセラーになっています。その1冊、『命の輝き』を読んでみて、本当に驚きました。北海道の女の子が友達に裏切られたり、援助交際に走ったり、リストカットするといった深刻な経験を繰り返す。しかし、信頼できる友達に支えられ、自分の過去を告白しても気にしない恋人を見つけて結婚するのですが、夫には心臓病の持病があって早世してしまう。主人公は残された子供とともに幸せな未来を信じて生きていくという物語です。

最初のうちは「こんなもの読めるか」と思ったんですが、読み進めるうちにそれなりに惹き込まれてしまいました。

驚いたことの一つは、貧乏で困ったなどというたぐいの記述はどこにもないことです。人生の大事は人と人との幸せなつながりをどうやって作っていくかなんですね。昔なら学校を卒業すると就職して社会人になるというお決まりのコースがあったけれども、それはもう期待できない。

そこでこの本が発信している中心的なメッセージは、希望がもてるのは、信頼と愛情に結びついたしっかりとした人間関係をネットワークとして作り、それを生きる支えにしていくことなんだ、それは誰にとっても可能なんだよということなのです。

私には、これこそが、近代社会の新しい「物語」、出世や金儲けの物語に代わる愛と信頼の物語なのだと思われます。その種の物語が、今日の多くの若者たちというか智民群集によって、喜んで読まれているということは、否定しがたい社会的事実なのではないでしょうか。

ですから、これからの地域のアクティビストにとっての大きな課題の一つは、そういった物語を求めている人たちとどういうふうに連携していくのか、ということです。

もう一つは、外からやってくる人たち。いわゆる“よそ者”との連携です。特に学生たちとの連携ですね。10年ほど前ですが、村の全戸にパソコンを配った富山県の山田村(現在は富山市)には、たくさんの学生が「パソコンお助け隊」として出かけていってパソコンの使い方を教えたり、地域でのいろいろな活動に一緒に参加したりして全国的に有名になったことがありました。

最近では福岡県の東峰村にたくさんの学生が出かけていって、ビデオの撮り方や番組の作り方などのノウハウを教えたところ、3カ月くらいで村が非常に大きく変わったという事例が、さきほどご紹介した「元気村」の本の中で報告されています。

たしかに、外部の大学や学生たちと連携することによって、別の地域の先行事例を「移植」することができないだろうか、という発想も注目する価値があります。また、自分たちの地域が行っている独自の試みをITを活用することによって全国に発信していくという考え方もあります。

数年前から大変有名になった例には、徳島県上勝町の「彩(いろどり)事業」があります。日本料理に添える「ツマモノ」を山から取ってきて、全国の料亭に送るという事業ですが、これが非常に成功して、おじいさんおばあさんたちのいい仕事になっています。

最近では愛媛県の内子町が、畑と農家と消費者を結ぶ図「からりネット」を立ち上げて、農産物の「かんばん方式」とも呼ばれる直売システムを成功させています。

庄内でも、たとえば北海道の西いぶり広域連合の先行例を学んで、自前のデータセンター業務を立ち上げることなど、検討してみる価値があるのではないでしょうか。この研究会ではこうした課題のいくつかを取り上げて、皆さん方と一緒に研究を進めていきたいと考えています。

私たちはこれから2つの顔を持って生活していくことになるでしょう。 一つは地域に生きている個人や企業としての顔です。ですが同時にグローバルなネットワークメンバーとしての顔も持つようになるのです。スローガン風にいえば、「Sense locally act globally」とでもいうことになるでしょう。

私たちは、地域のニーズを敏感に感じ取り、それに応えるべくグローバルに行動するようになりたいものです。それには、いわゆるアクティビストだけでは足りないので、地域の智民群衆との連携をどうしていくのかが大きな課題となります。さらにその先には、地方政治や国政との連携があります。元三重県知事の北川さんたちが中心となって「日本をせんたく(洗濯・選択)しよう」という運動を起こしていらっしゃいます。多くの支持と関心が集まっていますが、そうした流れとうまく結びつけば、情報革命・智民革命は、社会革命としてだけではなくて、政治革命としても成功する方向に向かうのではないでしょうか。

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公文 俊平 (くもん・しゅんぺい)
わが国の情報社会学会の創設者。経済企画庁客員研究官、東京大教養学部教授、国際大グローバル・コミュニケーション・センター所長、代表など歴任し、現在は多摩大情報社会学研究所所長。
>> 多摩大情報社会学研究所
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