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地域情報化セミナー「地方に求められる情報産業企業」

「最新の地域情報化状況と地方における情報産業企業の必要性」(1)

GLOCOM助教・研究員 庄司昌彦氏
講演する庄司氏の写真

今日は私の目から見た最新の地域情報化の動向を紹介し、また、地方における情報産業企業の必要性やその役割について提案してみたいと思います。

はじめに、情報化ということを少し離れて「地域で人をつなぐ」ということについて考えてみます。平成19年の国民生活白書には、「あなたが近所でお付き合いをしている人数はどのくらいですか」という質問をした結果が載せられています。それによると、「生活面で協力し合う人」は、4人以下だという回答が9割以上でした。生活面で協力し合うような近所付き合いは少ないということです。また、1975年と2007年の比較をしたデータでは、近所の人と「親しく付き合っている」という回答は52.8%から10.7%まで減少しています。

この白書では、私的な近所付き合いだけでなく、町内会・自治会への参加についても調査しています。それによると町内会や自治体に「参加していない」という人は51.5%という結果でした。もはや、国民の半分以上が町内会・自治会活動に参加していないということです。また、1968年と2007年の比較でも、町内会・自治会活動への参加頻度は著しく低下していました。

近所付き合いや町内会活動が低調でも、近年は地域でのボランティアやNPO活動が活発になっているじゃないか、という指摘もあろうかと思います。しかし、それについて聞いたデータによると、ボランティアやNPO活動に「参加していない」という人は81.3%に上ります。確かにボランティアなどは活発になっているのかもしれませんが、地域におけるインパクトは、まだそれほど大きなものではないようです。

このデータを見ると、日本における人と人の付き合い、つながりは衰退していると感じます。ところで、こういった人のつながりについて議論をするときに、研究者の間ではよく「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」というものの重要性について議論をします。代表的な研究者は、ロバート・パットナムという人です。1970年代にイタリアで進められた地方分権を研究したのが、彼の『Making Democracy Work』という本です。その中で、地方政府がうまくいった地域には、自発的な市民活動が根付いていて活発で、水平・平等主義的で、市民度が高いという特徴があると述べられています。そして、そのような特徴をソーシャルキャピタルと呼んだわけです。また、同じ観点で彼がアメリカを研究したのが『Bowling Alone』という本で、アメリカにおけるコミュニティの衰退が指摘されています。

こういった議論でカギとなっているソーシャルキャピタルは、地域の人々が「一緒に何かをやる」ということに深く関わっています。人々が何かを一緒にする時には信頼とか、お互いに何かを与え合うとか、参加のネットワークといったものが必要で、そういうものがあると協調行動が活発になると考えるわけです。

こういったものの見方を踏まえて日本の地域社会を改めて考えてみましょう。職業選択や居住の自由が広がり、人々の流動性や社会の変化が激しくなると、地域における人のつながりは衰退します。特に都市部では人々の協力関係が結びにくくなっていて、安心な社会ではなくなってきているとすら言えます。また、地域の業界団体なども、うまく機能しなくなってきています。それでも政府が地域を支えることができればいいのかもしれませんが、国も地域を支えきれなくなってきています。今後は地域のことは自分たちで考え、自分たちで資源を集めて、自分たちで問題を解決していくことが、さらに強く求められていくことになっていくでしょう。

そうだとすると、地方自治体はもっとパワーアップして、さまざまな社会的課題を担っていかなければいけません。地方分権改革は進んでいますが、行政だけでは限界があります。そこでソーシャルキャピタル論を参考にすると、さまざまな中間組織・団体が活発に活動し、地方政府と協力し合うというような体制をつくっていくことが、今後の地域社会の運営には必要になるだろうと考えられるわけです。そしてそのような協調行動や中間組織の活動を活性化するためには、地域で人をつなぐ、あるいはつなぎ直す取り組みが重要になってくると思います。

そこで、2つの「人のつなぎ方」の話をしたいと思います。1つは「結束」、もう1つは「橋渡し」というものです。まず、結束というのは、その名の通り、地域や組織の中にいる人たちのネットワークを緊密に、強力にしていくということです。つながっていない人がいるのであればつなぎ、関係を太くし、緊密化させていくわけです。そのためには、例えばみんなが同じものを見る、同じことを体験することが有効です。

例えば、その組織の中だけで通じる言葉を持つ、ということがそれに当たります。ネットの世界では「2ちゃんねる語」というネットの言葉がありますし、女子高校生の中だけで通じる言葉というものもありますね。同じメディアを見て、言葉や話題を共有することができ、言葉やイベントを共有することで、一体感や仲間意識、安心感、信頼といったものがつくられていきます。そしてそれは、日常の実生活における人間関係の充実に結び付きます。

言葉以外では、体験の共有も挙げられます。飲み会などの場を共有することで、ネットワークの緊密化を図れる、ということはイメージしやすいと思います。それから、内部の人同士が紹介し合って早くなじめるようにしていくような、人間関係をつないでいく取り組みです。しかし、中での結束を強めるだけでは足りません。そこでもうひとつの観点「橋渡し」が必要となってきます。

橋渡しは、その地域や組織の中にいなかった人を連れてくるということです。そういった新メンバーには二通りありまして、1つは「よそ者」です。この場合は、他の地域から人が入ってくることによって、新しい情報やアイデアが生まれてきます。例えば、佐渡島の「佐渡お笑い島計画」という地域情報化の取り組みでは、佐渡が新潟中越地震の後元気がなくなったときから、吉本興業と協力して芸人を1年間佐渡島に住まわせるということをやっています。お笑い芸人ですから、面白いことを言ったり、ツッコミを入れたりなど得意なわけですが、そうした新しいよそ者を地域の外から連れてくることによって、新しいものの見方がつくられていくわけです。それからもうひとつの新メンバーは、「ハブ」とか「コネクター」といわれる人です。外のいろいろな人脈を持っている人との接続です。

例えば、この講演会を毎月開催して、公文先生からいろいろな講師を紹介していただくと、鶴岡は各界のいろいろな人とつながることができ、新しい情報が入ってくるようになるわけです。ただ、新しい人を連れてくることばかりしていると、地域や組織の中でつくってきた一体感や信頼感が壊されてしまいかねないという問題があります。つまり、結束も橋渡しもどちらも大事で、地域や組織に実情に合わせて使っていかなくてはいけません。

まとめると「つながりを深める」ということと「新しいつながりをつくる」ということの両方を地域でやっていかなくてはいけないと思います。それによって地域に中間組織や協調行動が生まれ、さらには新しい楽しさや発見が生まれてくるでしょう。

>> 「最新の地域情報化状況と地方における情報産業企業の必要性」(2)

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庄司 昌彦 (しょうじ・まさひこ)
国際大グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)助教・研究員。専門は情報社会学、政策過程論、地域情報化、ネットコミュニティなど。
>> 国際大グローバル・コミュニケーション・センター
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